職場と労働法/団体交渉の対象事項

連載・職場と労働法

実践的に考える職場と労働法

 

団体交渉の対象事項

 

労働条件その他の待遇、労使関係の運営事項が対象

 団体交渉の対象事項については、企業として処理可能なことで使用者が任意に応じる限りは、どんなことでも構いません。その上で労働組合法によって使用者に義務付けられている事項(義務的団交事項)は次のようなものです。
 ところで義務的団交事項について使用者は「経営権」の主張をしばしば行いますが、法律上「経営権」なる団体交渉を免れる特別の権利が使用者にあるわけではありません。法律上、義務的団交事項かどうかは、「労働条件の取引についての労使の実質的対等化」や「労使関係に関する労使自治の促進」という観点から判断していくことになります。
 「組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」が義務的団交事項の定義となります。

 

労働条件とは

 

 「労働条件」とは、労働者が労働を行う上での契約上の条件ないし約束事であり、「その他の待遇」は、労働関係における労働者のその他の経済的取り扱いが対象となります。労働の報酬(賃金・一時金・退職金・福利厚生給付)、労働時間、休息(休憩・休日・休暇)、安全衛生、災害補償、教育訓練などが労働条件・その他の待遇の代表例です。
 労働の内容・密度・方法・場所・環境も原則として労働条件となります。日常的に軽微なことについては、労務指揮権に委ねられた範囲かどうかで義務的団交事項でないと判断される場合もあります。
 組合員の配転、懲戒、解雇などの人事の基準(理由や要件)、その手続きは、もちろん労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団交事項となります。
 年俸制賃金、業績賞与、職務等級制、役割等級制など、評価に大きく依存する賃金・人事制度における評価の基準・枠組みも義務的団交事項となります。

 

規範的効力

 

 労働条件その他の待遇の基準は、労働協約により規定された場合には労働組合法16条により規範的効力を生じます。すなわち労働協約に定められた基準が就業規則や労働契約などで決められた基準よりも優先し、使用者は労働協約で決められた基準を遵守しなければなりません。

 

非組合員

 

 日本における団体交渉制度は、法律上、労働組合は組合員の労働条件のその他の待遇についての団体交渉権を有し、非組合員については団体交渉権を有しません。
 もっとも、組合員でない管理職や新規採用者などの労働条件などが、組合員の労働条件に影響を及ぼす場合などについては、使用者は団体交渉義務を負うことになります。

 

地方公務員

 

 地方公務員現業職の任用問題、特に任用更新・再任用の問題について、しばしば任用行為は管理運営事項にあたると主張されがちですが、これは中央労働委員会において、自治体当局は裁量権を有しており、団体交渉義務を負うと判断しています(北九州市病院事件)。特に繰り返し任用が行われ継続して勤務している実態があれば義務的団交事項となる。

 

経営・生産

 

 新機械の導入、設備の更新、生産の方法、工場事務所の移転、経営者や上級管理者の人事、事業譲渡、会社組織の変更、業務の外注化・下請化などの経営・生産に関する事項は、労働条件や労働者の雇用に関係ある(影響がある)場合は、義務的団交事項となります。
 経営・生産に関しては労働条件に関係・影響があるかがしばしば争点となります。
 職場の再編成については、労働者の職種や就労場所の変更が伴うものであれば義務的団交事項となります。外注化・下請化についてもそれ自体は使用者が一方的に決定しうる事項との使用者の主張に対し、、それに伴う労働者の職場変更については義務的団交事項と判断された裁判例も多くあります。
 「軍需生産の受注をやめろ」「公害をもたらす製造工程反対」などは義務的団交事項ではないとの裁判例もありますが、学説上は反対意見もあります。

 

個別問題

 

 団体交渉は集団的労働条件の基準の形成に関する手続きで、個々の労働者に関する配転や解雇などの取り扱い、労働者個人の権利などについては、諸外国では労使間の団体交渉とは別の苦情処理手続きで処理されるケースも多い。
 しかし日本では現実的にも団体交渉で処理されることが多く、労働委員会や裁判所も、個別人事や権利主張について義務的団交事項であるとの解釈が確立しています。
 ユニオンショップ、労働組合に関する便宜供与、団交の手続きやルール、争議行為に関する手続きやルールなども義務的団交事項となります。

 

 ちば合同労組ニュース 第127号 2021年2月1日発行より