裁量労働制の適用拡大の動き/解釈変更だけで適用拡大

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裁量労働制の適用拡大の動き

法律に手を加えず解釈変更だけで適用拡大

 実際の労働時間にかかわらず一定の時間を働いたとみなす「裁量労働制」の適用拡大について、年末、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で議論が煮詰まっています。なんと法律に手を加えず〝解釈変更〟だけで押し通そうというのです。トンデモナイ話です。

捏造データ問題

 覚えているでしょうか? 
 安倍政権時代の2018年に「働き方改革関連8法案」の一つとして裁量労働制の適用拡大が国会で審議されていました。
 ところが国会で安倍首相が「裁量労働制の労働者は一般の労働者より残業時間が少ない」と答弁し、実は数字を操作した捏造データであることが発覚したのです。それぞれ違う調査方法でデータを集め、さらに数字の加工もしていたのです。このためあわてて法案から削除したのです。
 いわくつきの裁量労働制の適用拡大が国会審議も法改定もなしで厚労省の審議会で決定されようとしているのです。報道によれば対象拡大については紛糾し、労働者が同意の義務化では労働者側の委員も同意したとのこと。

みなし労働時間

 裁量労働制は、制度としては1987年に労働基準法の改定で初めて導入されました。労働基準法では労働時間には上限が定められ、それを超えて働かせる場合は一定の手続き(36協定)と割増賃金の支払いが必要です。
 他方、裁量労働制は「みなし労働時間制度」の一つで、業務の遂行方法や時間配分の決定などの裁量を労働者にゆだねることで、労働時間が長くても短くても実際に働いた時間に関係なく契約した労働時間を働いたとみなす制度です。
 当初、制度の対象は研究開発業務など11の専門職に限定されていました(専門業務型裁量労働制、現在は19業種に拡大)。2000年に「企画業務型裁量労働制」が新たに導入され、経営に関わる企画・立案・調査・分析などを行う労働者も対象となりました。
 厚労省の調査では、フルタイムの常用労働者のうち専門型で働く人は1・2%、企画型が0・2%。

定額働かせ放題

 働き方改革関連法案では、高度プロフェッショナル制度が〝残業代ゼロ制度〟と批判され焦点化しましたが、実は裁量労働制の適用拡大の方が本命だとの指摘もあったほど重大な問題なのです。
 当時は、「課題解決型開発提案業務」「裁量的にPDCA(計画・実行・評価・改善)を回す業務」を対象にすべきとの内容でした。これでは法人相手の営業職や、必ずしも管理職に位置づけられない係長や主任など広範な労働者が対象になりかねません。
 たとえば1日の労働時間を8時間とみなす裁量労働制が適用された場合、実際の労働時間が4時間であろうと12時間であろうと、8時間働いたとみなされます。業務量が多く、納期に間に合わせるために長時間残業が必要でも、会社は所定の賃金を支払うだけで済みます。このため「定額働かせ放題」と批判されているのです。
 争議や裁判事例をみても、過労死ラインを超える残業時間で裁量労働制が適用されるなど、過労死や過労自殺に関与しているケースは多い。

過労死を招く

 厚生労働省によるデータ捏造の発覚後、再度の調査でデータの取り直しが行われました。その調査によると裁量労働制の労働者の方が平均労働時間は長く、深夜労働や自宅への持ち帰りの頻度が多い。「仕事の内容や量を上司が決定」「上司の意向に踏まえ労働者が決定」を合わせると約4割。ところが、「ニーズの多様性」「適切に運用すれば大丈夫」という結論を強引に導き出して適用拡大に突き進んでいるのです。
 基本的に労働者にメリットはありません。労働弁護団が実施した裁量労働制でのアンケートについての見ても、みなし労働時間と実際の労働時間との乖離は非常に大きく、労働時間の把握についても労働者本人の自己申告になっているケースも多い。出退勤の裁量もなく深夜や休日も働ている。制度適用に同意した覚えがない人が半数で、よくわからないまま制度が適用されている人が結構多いのです。
 アンケートの自由記載では「在職死亡が増え、精神疾患が激増」「休日出勤が多く代休が100日くらい溜まっている」(記者・編集者)
 「業務量が多すぎて自由に働けない」(デザイナー)、「みなし労働時間では終わらない業務量」(ゲームソフト制作)、「クライアント優先で業務量の調整はできない」
 「実働時間が多いにもかかわらず残業代がでない」(士業)、「労働時間の把握をしないので可視化されない」(大学教員)など衝撃的なコメントが多い。

 ちば合同労組ニュース 第150号 2023年01月1日発行より