近年、焦点化する最低賃金制度

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近年、焦点化する最低賃金制度

当面、全国一律1500円への引き上げを

 都道府県別の最低賃金が10月1日から引き上げられました。千葉県は953円。全国平均で28円となり過去最大幅、時給平均930円となりました。全都道府県で時給800円を超えました。とはいえ平均時給930円で2千時間働いても年収200万円に満たない状況です。

最低賃金制度とは

 「最低賃金制度」は、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならない制度です。
 仮に最低賃金額より低い賃金を労働者・使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされ、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。罰則(50万円以下の罰金)もあります。
 最低賃金には、各都道府県別の「地域別最低賃金」と、特定産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
 地域別最低賃金は、正規・非正規の雇用形態に関係なくすべての労働者とその使用者に適用されます。特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用されます(減額の特例あり)。
 最低賃金の規制の対象となる賃金は、1か月を超えない期間ごとに支払われる通常の労働時間または労働日の労働に対して支払われる賃金で、臨時に支払われる賃金や一時金のように1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は最低賃金の対象とはなりません。また時間外労働手当や通勤手当も最低賃金の計算から除外します。
 賃金は日給制や月給制などの期間によって定められている場合には、賃金額を所定労働時間で割った金額に換算して、最低賃金額以上を支払っているかで判断されます。

最賃決定の仕組み

 最低賃金は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成する最低賃金審議会において、賃金の実態調査など各種の経済・労働指標を参考に審議調査を行い決定することになっています。
 毎年、中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対し、金額改定のための引上げ額の目安が提示され、地方最低賃金審議会では、その目安を参考にしながら地域の実情を反映して地域別最低賃金額の審議を行う仕組みで、地方最低賃金審議会は7~8月に開催されます。
 最低賃金制度は、制度導入時(以前)から労働運動上の焦点の一つでした。とりわけ近年の新自由主義的政策により雇用・賃金破壊が劇的に進行する中で、最低賃金制度は以前にも増して社会的・国際的にも注目されるようになっています。

労基法よりずっと後

 もともと1947年に制定された労働基準法に最低賃金の規定がありましたが、実際には1959年の最低賃金法の制定まで最低賃金は定められていなかったのです。
 また労働組合からは「全国一律最低賃金」の要求が根強くありましたが退けられ、全都道府県を賃金実勢や生活費格差などから4つのグループに分けて、中央最低賃金審議会が各グループにつき地域別最低賃金引き上げの目安額を提示する方針となり、現行制度に至りました。 
 産業別最低賃金制度は、石炭・食料品製造・繊維・機械金属製造・卸売・小売業などの産業で設定されました。しかし地域別最低賃金が整備されるとともに後景化していきました。 
 その後、主要な対象産業である製造業経営側から「産業別最賃は地域別最賃に屋上屋を重ねるもの」と廃止の主張がなされ、現行制度では罰則のない上積みの最低賃金制度として存続しています。

ワーキングプア批判

 近年、地域別最低賃金は、生活保護の給付水準より低額で「ワーキングプア」との批判がなされるようになり、また日本の最低賃金は、英米などの最低賃金額と比較しても相当に低いことが問題視されるようになりました。
 「最低賃金は生活保護を下回らない水準となるよう配慮する」が政府解釈として答弁され、そうした流れの中で07年に最低賃金法が改定され、引き上げペースが少し上がりました。
 全国で20円以上の格差があり、ワーキングプア水準の年収を考えると、最低賃金については全国一律の額とし、当面1500円程度の引き上げが早急になされるよう運動を強めていく必要があります。

ちば合同労組ニュース 第138号 2022年1月1日発行より