連載・介護労働の現場から〈31〉 お局様

連載・介護労働の現場から

連載・介護労働の現場から 〈31〉

お局様

メモ帳は、湯沸かし室の吊戸棚に置いておいた。ポケットに入れてチラチラ見ていると注意されるからだ。誰に聞いても「知らない」という。お手上げだ。一週間分の仕事のデータがパァーだ。
しかたないので先輩パートの三田村さんに小声で聞きながら仕事をする。

職員が大人数だと身分制がある。課長、その下に看護主任の係長と介護主任の村松係長の二人がいて、あとは看護師の常勤、パート(一人だけ)、介護職は常勤11名、パート7名。それぞれ経験の長い人がいばっている。
誰が古いかは、シフト表を見ればわかる。私と百瀬さんは、シフト表が一番下。そして、やさしく声を掛けてくれたり、親切に教えてくれるのは、パートの介護職。
だから三田村さんと一緒のシフトになるとすごくうれしい。
三田村さんが「あらかんさんのメモはどこかのゴミ箱にあると思うよ」と耳打ちしてくれた。備品室、洗濯場、浴室…と仕事がてらゴミ箱をみてみると、汚物室(排泄物で汚れた衣類や下着を洗う部屋)にあった。

誰かがわざとやったのだ。
三田村さんが「染谷さんだよ」と教えてくれる。また、染谷さんか。染谷さんはパートの一番古株で、昔のメロドラマの典型的ないじめ役、お局タイプで、吊り上った目つきに引きつった表情、そのステレオタイプぶりはいまどき貴重だ。そして、いじめられて陰で泣くのが百瀬さんで、「アハハ…」と笑うのが私。
3歳年上の私に「まぁ、この子は口答えばかりする」
「そんなこというのは十年早い」
朝の全員ミーティングで空いた椅子に腰掛けると「いちばん新米だから後ろに立つんだよ」
休憩時間になって休憩室に行こうとすると「いちばん後で行くんだよ」

言いつける仕事も無理難題。やってる仕事の途中で違う場所での仕事をやれと命令する。「どちらを先にやればいいんですか?」というと、「両方同時にやれないの?」
p0065_03_01a 勤務終了時間10分前になって、片道15分はかかる病院に入居者を迎えに行けという。「走れば5分でいけるわよ」
PHSコールで居室に駆けつけると、すでに染谷さんがいる。入居者じゃなく染谷さんが鳴らしたのだ。「用もないのに来るんじゃないよ」
三田村さんも最初の頃は、染谷さんにやられていたそうだ。今は私と百瀬さんがターゲット。それに対して、課長以下誰も染谷さんに注意しない。染谷さんは身体介護はまったくしないで、まるで役割は新人いじめみたいだ。

ある日、染谷さんが「この子、おかしくなっちまったよ」というのが聞こえた。駆けつけると、百瀬さんがぶるぶると震えたまま、フリーズしていた。(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第65号(2015年12月1日発行)より