雇用契約と労働条件通知書

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雇用契約と労働条件通知書

来年4月から契約時の労働条件明示

 企業が労働者を雇う際、「雇用契約」を結ぶ。雇用契約は口頭でも成立しますが、賃金や労働時間、その他の労働条件を事前に明示する必要があります。労働条件のうち特定の事項は、労働基準法15条及び施行規則第5条の規定で明示が義務付けられています。
 具体的には下記の13項目となります。
①労働契約の期間
②就業場所及び従業する業務
③始業・就業の時刻、所定労働時間を超過する労働の有無など
④給与・計算方法・支払方法・賃金締日・支払時期・昇給
⑤退職・解雇
⑥退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算方法・支払方法・支払時期
⑦臨時で支払われる賃金、賞与、これに準ずる賃金・最低賃金額
⑧労働者に負担させるべき食費や作業用品その他の事項
⑨安全・衛生
⑩職業訓練
⑪災害補償・業務外の傷病扶助
⑫表彰・制裁
⑬休職
 このうち4「昇給」を除いた1~5の項目は書面の交付が必要です。これが「労働条件通知書」です。以前は書面の交付が必須でしたが、近年は双方の合意を条件にPDFや電子メールでの交付も可能に省令が改定されました。
 ちなみに「雇用契約書」と「労働条件通知書」は別ものです。日本の民法は、契約を成立させる際に書面などの形式を義務としない「意思主義」で、口約束でも正式に契約が成立します。雇用契約も口約束で契約は有効となります。
 以前は、パートやアルバイトなど非正規雇用は契約書が交わされないケースも多かったのですが、近年は労働契約法の規定などにより契約書を交わさないケースの方が少数派だと思います。
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通知書の交付義務

 他方、労働条件通知書は労働基準法で義務付けられています。「労働条件通知書(兼)雇用契約書」の形式で書類が作成されることもあります。
 雇用契約書は作成時に署名捺印し、労使双方が1通ずつ保管できるように2通作成することが通常です。他方、労働条件通知書は署名捺印は必要ありません。また労働条件明示書の対象者は正規雇用だけではなく短期雇用や短時間のパート労働者も必要です。
 交付のタイミングは雇用契約締結時です。新卒の場合は職業安定法に規定で正式な内定を出すまでに提示しなければなりません。就労開始日やそれ以後に提示されることも多いですが、労働条件を定めずに採用することは現実的にはありえないので、そのタイミングで示すのが当然です。
 労働条件に変更があった場合は可及的速やかに変更内容を記載することが望ましいとされますが、そもそも労働条件の変更は労使合意が必要です。こうした場合にサインを求められることもありますが慎重な対応が必要です。
 上述のように通知書は電子メール等も可能ですが、必ず宛名を特定し、書面としてプリントアウトが可能な形式でなければなりません。また、労働条件の保管義務は5年となっています。労働条件を提示しない企業は30万円以下の罰金が課されます。

来年4月から追加

 厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会の答申(2月14日)で来年4月から労働条件の明示事項が追加されることとなりました。
 まず就労の場所及び業務の「変更の範囲」の明示が必要となります。これまでも「就労の場所及び従事すべき業務に関する事項」は明示事項でしたが、雇入れ直後の就労場所や業務を明示すれば良いと解釈されており、今後は将来にわたる「変更の範囲」の明示が必要となります。
 「変更の範囲」は、就労場所や業務が限定されている場合は、その具体的な場所や業務の範囲を示す。他方、明確な限定がない場合には「会社の定める事業所」「会社の指示する業務」などの明示が検討されているとのこと。
 有期労働契約について通算契約期間や更新回数も明示事項となりました。労働契約法18条の無期転換ルールに関するトラブルを未然に防止することが狙いと説明されていますが、実際には無期転換回避のための雇止めの誘発が懸念されます。
 また更新上限は、契約の変更や更新に際して新たに通算契約期間や更新回数の上限を設けたり、当初の通算期間を短縮したり、更新回数の上限を引き下げるときは、あらかじめその理由を労働者に説明しなければならない。
 無期転換についても、労働者が申込権を行使する際の申出先や申込方法、転換後の労働条件などについて書面の明示が求められます。無期転換後の労働条件に関しては労働契約法で待遇の均衡を考慮することが求められているので(労働契約法3条第2項)、これも労働者に説明する努力義務も生じます。