36協定の効力と職場代表選挙

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36協定の効力と職場代表選挙

36協定締結は労働者側の意向で決めるべき問題

 多くの職場では年度末に職場代表選挙が行われます。
 労働基準法は、時間外・休日労働を原則として禁止しています。職場の過半数組合(ないときは過半数代表者)と書面による協定をし、これを労働基準監督署長に届け出た場合には、協定で定めるところにより労働時間を延長し、または休日に労働させることができるようになります。
 労働基準法36条に基づくので36協定と呼ばれます。労使協定が有効に結ばれず、あるいは労基署に届出がされていない、そして職場で周知されていない場合は、残業命令は無効となります。
 2015年12月に女性新入社員が過労自殺した電通事件では、捜査の過程で、組合員数が本社や支社の全労働者の過半数に達していない社内労働組合が労使協定を結んでいたことが明らかになりました。36協定が無効で、なおかつ無効な36協定を超える長時間労働を強いていたことは驚きでした。
 電通は、「正社員の過半数は(正確に言えばユニオンショップ協定で正社員の全員が)労働組合に加入しているものの、(ユシ協定対象外の)有期雇用の社員が増加したため、全体では条件を満たしていなかった」と釈明しました。
 当然のことですが、過半数労働組合は、雇用形態にかかわりなく、その事業所で雇用されるすべての労働者の過半数で組織する労働組合でなければなりません。過半数でない場合は、適切な手続きに従って過半数代表者を選出し、あらためて労使協定を締結しなければ有効な労使協定とはなりません。
 では無効な36協定を放置したまま、労働者に残業させるとどうなるのでしょうか?
 電通事件では、労働者に36協定で定めた延長時間の限度を超える時間外労働をさせていたとして労基法違反で電通が略式起訴されました。その後、東京地検の捜査で36協定そのものが無効であったことが発覚したのです。
 無効な36協定のもとでは36協定を結んでいないのと同じ状態であり、労働者に1分でも残業させれば、労働基準法32条違反になります。たとえ有効な36協定であっても、あらかじめ設定しておいた延長時間の限度は超えてはいけません。電通は延長時間上限を50時間と設定していました。
 電通は、そもそも36協定が無効であり残業をさせることができなかったことに加え、上限時間を超えて残業させるという二重の罪を犯していたのです。
 しかも過半数割れした理由が非正規雇用が増えすぎたことにあることには、なんとも複雑な気持ちを抱かせます。しかし結局、電通事件では、「故意ではなかった」としてこの部分の立件は見送られたようです。

違法な残業命令

 36協定の有効性をめぐって有名なのが「トーコロ事件」です。残業命令の拒否を理由とする解雇の有効性が争われた裁判です。
 トーコロ社の36協定では労働者代表を全員の話し合いで選出したとして営業部の社員の名前が記されていました。しかし実際には「友の会」代表が自動的に労働者代表にスライドしただけでした。
 友の会は単なる親睦団体であり労働組合ではないので、過半数労働組合には該当しません。全員による話し合いの実態もなかったため36協定は無効と判断されました。
 このため残業命令が無効となり、無効な命令拒否を理由とする解雇も当然に無効と判断されたのです。

代表の選出方法

 過半数代表者の選出方法については、労働基準法の施行規則により、従業員の過半数代表者の選出方法として、「投票、挙手等」が挙げられていますが、それ以上の詳しい規定はありません。
 厚生労働省の通達では、具体例として「親睦会の代表」「一定の役職者が自動的に代表となる場合」「一定の役職者の間での互選」などはNGだとしています。
 重要なことは、36協定を締結するかどうかは労働者サイドの意向で決めることです。労働者は36協定の締結を拒否することもできるのです。ただ判子を押すだけのロボットを選出するわけではないのです。したがって労働者の自主的で民主的な選出方法は当然のことなのです。

 最後に、昨年の「働き方改革」関連法で労働時間規制が変わりました。いちおう頭に入れておいて下さい。
 36協定には「特別条項」というのがあって、これまでは1年間のうち6か月間は時間外労働の規制を青天井にできました。12年7月25日付東京新聞は、特別条項による1カ月の時間外労働が大日本印刷200時間、関西電力193時間、日本たばこ産業180時間など、東証1部上場で売上上位100社の7割が、「過労死ライン」月80時間を超えていると報じています
 これが、上限規制によって今度の4月1日から特別条項でも1か月100時間未満、年間720時間、2~6か月平均で月80時間までの規制がかかることになりました。

ちば合同労組ニュース 第104号 2019年03月1日発行より