最近の日常的かつ過剰な学生バイト事情

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最近の日常的かつ過剰な学生バイト事情

奨学金(将来の負債)回避で学業を犠牲にバイト

 最近、ブラックバイトや闇バイトなど学生アルバイトをめぐるトラブルが社会問題化し、また「103万円の壁」なども話題に上る。
 学生バイトの「103万円の壁」は、19~22歳の学生を扶養する親の税金を計算する際に収入から一定額を差し引く扶養控除、本人の所得税の発生額を指す。
 新たに「特定親族特別控除」を作り、学生の年収が150万円まで税優遇を受けられるようになる。加えて学生本人も年収150万円まで所得税が免除になる。これは学生アルバイトの〝働き控え解消〟の方策なのだそうだ。
 「学生アルバイトの働き控え解消」に違和感があり、少し調べてみた。
 08年のリーマンショック以降、日常的にバイトを行う大学生の割合が急増している。そこには①家庭の仕送りの減少、②大学授業料の持続的な値上げ、③フランチャイズシステム業態の拡大と学生バイトの基幹化、④求人募集媒体のデジタル化――など複合的要因が背景にある。
 大学生のアルバイトは社会経験やコミュニティーの場として大切だ。だが今や学業や学生生活を犠牲にする日常的かつ過剰な学生バイトが社会的に生じ、企業による若者の使い捨てが広がっている。
 
 
 

以前のバイト事情

 大学生のアルバイトは高度成長期に一般化し(戦前はバイトではなく「内職」と呼ばれた)、70年には従事率は8割に達した。ただし、日常的な従事者は3割弱で、長期休暇中のみバイトする学生が半数を占めた。長期休暇中のバイトが主流だった。
 その後、90年代のバブル崩壊の頃までの大学はサークル活動が盛んで、またスキーや海外旅行、車やバイク、服の購入など大学生の消費志向も強くなったことを背景に、学生バイトが活発化した。
 企業側も居酒屋やファストフード、ファミレス、コンビニなどでフランチャイズ型の業態が広がり、即戦力として学生を雇用した。
 学生援護会の『アルバイトニュース速報』の創刊は1967年で都内の大学生協で販売された。80年代には別冊でリゾート特集が組まれ、海水浴場やスキー場など〝おしゃれな求人〟が掲載された。86年には『an』に誌名を変更し、最大時は日刊40万部以上を発行した。
 

近年のバイト事情

 だがバブル崩壊から次第に家庭からの仕送りが減少傾向となり、また授業料の大幅な値上げが継続した(大学志願者数がピークだった92年度と比較すると約30年で1・5倍に増加した)。景気後退の影響でアルバイトの収入も減少した。
 その〝赤字〟を補ったのが貸与奨学金だ。90年代半ばには2割前後の利用率だったが2012年には半数以上の大学生が奨学金を借りる状況になる。ただし奨学金と言っても大半は有利子で事実上の学生ローンである。日本育英会は学生支援機構に改称し、基準の大幅な緩和や規模の拡大が図られ、事業費(貸付金!)は十倍以上に膨れた。
 これがいわゆる「奨学金返済問題」として社会的焦点となる。卒業後に数百万円の借金を背負い、非正規雇用の拡大もあいまって、その後の人生に大きな影響が生じた。
 こうして大学生が奨学金の利用を回避する傾向が生じた。いま現在の学業や学生生活を犠牲にしてでも将来の負債を回避する思考が強まったのだ。こうして大学生のアルバイト日常従事率は2010年代中盤から急速に上昇、働き方もまた変化した。
 増加したフランチャイズ業態では標準化された業務をマニュアル通りに行う非熟練労働力が必要とされた。また近年は、人手不足でアルバイト単価も上昇した。
 企業側は、学生アルバイトを基幹労働力として想定しており、もはや学生であることを考慮・尊重しない。シフト希望の無視、休憩時間なしやサービス残業(賃金未払い)、辞めさせてもらえない――などのブラックバイトが増え、学業や学生生活に支障を来たすような働き方が広がった。
 20年初頭からの新型コロナ感染症の流行で多くの学校は休校になったのだが、大学生のアルバイト従事率の落ち込みは思いのほか小さかった。学校に行かずにバイトに明け暮れていたのだ。

求人のデジタル化

 求人募集の媒体の変化も大きい。90年代後半から無料の求人情報誌が増え、00年代に有料誌を上回る。ネット求人情報サービスが始まり、スマホの普及で無料誌に並ぶ求人媒体に急成長した。
 きわめて効率的に求人情報にアプローチできるようになったことで学生アルバイトの状況は大きく変化した。求人情報のデジタル化は、「スキマバイト」を生み出し、「闇バイト」に行きついた。

ちば合同労組ニュース 第174号 2025年1月1日発行より