連載・介護労働の現場から

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連載・介護労働の現場から〈31〉 お局様

連載・介護労働の現場から 〈31〉 お局様 メモ帳は、湯沸かし室の吊戸棚に置いておいた。ポケットに入れてチラチラ見ていると注意されるからだ。誰に聞いても「知らない」という。お手上げだ。一週間分の仕事のデータがパァーだ。 しかたないので先輩パートの三田村さんに小声で聞きながら仕事をする。 職員が大人数だと身分制がある。課長、その下に看護主任の係長と介護主任の村松係長の二人がいて、あとは看護師の常勤、...
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連載・介護労働の現場から〈30〉 煎茶or玄米茶

連載・介護労働の現場から 〈30〉 煎茶or玄米茶 応募した有料老人ホームの面接に行き、ホテルのような外観と内装に驚いた。 私の面接の前に一人いて同じ部屋で待たされたので、自己紹介し合い、面接後に近くのホテルのカフェで待ち合わせた。 Mさんといい、夫と離婚してから介護の仕事をはじめ、現在55歳、うつ病の娘と2人暮らしだと語った。とても気が合ったので一緒に働けるといいねと言って別れて電車で家に帰ると...
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連載・介護労働の現場から〈29〉 有料老人ホーム

連載・介護労働の現場から 〈29〉 有料老人ホーム ハローワークの「介護労働相談窓口」は2ブースあり、一般の労働相談窓口がいつもチョー混みなのに比べて、ほとんど待っている求職者がいない。 手持ちぶたさの係はおしゃべりしながら、登録者への電話かけやダイレクトメール封入作業をやっている。 登録すると毎週、電話や求人情報大量掲載のダイレクトメールが来る。介護フェアといって求人側企業が一堂に介す就活イベン...
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連載・介護労働の現場から 〈28〉貧乏人の嫁

貧乏人の嫁 仕事がなくなったので、長らく会っていない友人と会ったり、家族と向き合う日々が続いた。 家族は「介護はやめなよ。何一つ良いことがないでしょ。給料が安い。身体は酷使する。プライドはズタズタ。労基法違反ばかり。何か人の役にたつことをやりたけりゃ、まともな仕事について空いた時間にやれば?」 一緒にコールセンターをやめた友人たちは、介護職からそれぞれコールセンターと派遣の事務職に転職し、いきいき...
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連載・介護労働の現場から 〈27〉 退職

連載・介護労働の現場から 〈27〉 退職 「雇用保険の記録では、雇用保険に入っているのが3月からなので雇用期間が今日まで5カ月ですね。6か月以上ないと雇用保険はおりないですね」 入社したのは12月だ。もう8カ月以上になる。契約書と給料明細書を見せた。 「12月から3月まで、あなたは雇用保険料を払っていませんね。でも、入社した日から雇用保険は適用になります。払っていない分を今から支払えばいいんです」...
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連載・介護労働の現場から 〈26〉 相談窓口

連載・介護労働の現場から 〈26〉 相談窓口 会社都合で解雇できないとなると雇用関係の助成金なのだろう。 介護事業は、国から介護保険サービス指定業者として許可を受けている。 私が会社都合で退職して何らかの是正勧告とかを受けると、絶対まずい、そういう危機感を社長がもっている。労組をつくり解雇撤回闘争をやった挙句、施設をつぶすという選択肢もあるなと、ちらっとアタマをかすめた。 でも、そんな弱みをぽろっ...
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連載・介護労働の現場から〈25〉 自己都合/会社都合

連載・介護労働の現場から 〈25〉 自己都合/会社都合 社長は、顧問の社労士と相談する、と私の要求を持ち帰った。職場に行くと和田さんが近寄ってきた。 「どうして辞めるの? ケガが治るまでレク担当やれば? 他の仕事はみんな引き受けるから」 「辞めるとは言ってないよ。ケガしたから管理者がクビだって言ってるだけ。社長は管理者がクビだという者を雇い続けられないんだって」 力石が来た。「あらまぁ、この腕じゃ...
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介護労働の現場から〈24〉 辞めると言ってない

連載・介護労働の現場から 〈24〉 辞めると言ってない あと、2日でクビ? 「言ってること分かっているの?」。私は思わず聞き返した。 管理者はうろたえた様子で「あらかんさんの代わりに本社からは応援にきてくれない。早く次の人、募集しなきゃ。それには、あらかんさんがいては募集できない」。 「休職規則はないの?」 ふたりで就業規則をめくってみたが、休職に対する項目はない。 これまで8か月ちょっと、施設の...
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連載・介護労働の現場から〈23〉 解雇通告

連載・介護労働の現場から〈23〉 解雇通告 介護の仕事は、緊張とストレスの毎日だ。 私は休日にはリフレッシュのため山へトレッキングに出かけた。以前は同行者と早目に調整し余裕のある日程が取れたのだが、介護の仕事に就いてからは、先のシフトの予定が立たないし、同行者の土日休みや連休に合わせて、いわゆる「弾丸登山」。 目一杯働いた日の夜に車で地元(千葉県には山がない。日帰りでも行くとしたら、近くても群馬か...
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介護労働の現場から〈22〉変動シフトという支配

介護労働の現場から〈22〉 2014年03月01日 変動シフトという支配 介護職場は「変動シフト制」が圧倒的だ。 「シフト制」とは、あらかじめ労働者から希望の休みを聞いておき(月2日までが多い)、雇用者が労働日を指定する制度。 「変動」とは、毎日の労働時間が決まっていないで、1日10時間働く日もあれば、6時間しか働かない日もあり、とにかく1か月の中で週40時間を達成すればいいという制度。 「9時~...
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介護労働の現場から〈21〉役割分担

介護労働の現場から〈21〉 2014年02月01日 役割分担 現場の労働条件が労働者本位で改善されていき、みんなに連帯意識が生まれ、笑顔で励ましあいながら仕事に取り組むと、あれほどつらかった仕事が、楽になってきたような気がした。 職場の雰囲気がいいので、本社のフランチャイズ担当が加入志願者を連れてよく見学にくるようになった。社長も評価してくれて、みんなを居酒屋でおごってくれたりした。 そのような中...
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介護労働の現場から〈20〉独り労組

介護労働の現場から〈20〉 2015年01月01日 独り労組 私が腰痛で休んだのは一日だけで労災は医療費に対して支払われた。 排せつや入浴、移乗などの身体介護ができなくなり、料理や掃除、洗濯、レクレーションなどの仕事に専従した。他のスタッフは私の分まできつい身体介護をこなしてくれた。 私が「悪いね」と言うと、「あらかんさんのおかげで、定時に帰れるようになったし、休憩取れるようになったし、健康保険や...
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介護労働の現場から〈19〉腰痛は労災でしょ

介護労働の現場から〈19〉 2014年12月01日 腰痛は労災でしょ 私に対する医者の診察時間は20分を過ぎて看護師たちがイラついているのがわかった。「何か事件はなかったですか? 腰をいためるような」と医者が言い出した。 私は大柄な井村さんへの介助を思い出した。ベッドから車いすへの移乗、車いすから椅子への移乗などは抱きかかえて持ち上げる。介護用ベッドでない低床型ベッドでのおむつ交換や着替えは前かが...
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介護労働の現場から〈18〉とうとう腰痛

介護労働の現場から〈18〉 2014年11月01日 とうとう腰痛 井村さんは入居2カ月過ぎるとガンの痛みが強くなり食が進まなくなった。家族は再三の連絡にも応じず、やっと来所したかと思うと「(痛いのは)寝違えたんでしょ」「こんど寿司食いに行こうか」と能天気。寝違えただけで体全体痛くはならない、ミキサーでムース状にしてやっと数口の病人が寿司なんて喰えるかと言い返したいところをぐっとこらえて説得し、病院...
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介護労働の現場から〈17〉介護とジェンダー

介護労働の現場から〈17〉 2014年09月01日 介護とジェンダー 介護職はその8割近くが女性だ。生計を維持できない低賃金だから女向け? また、介護される側は男性より女性を圧倒的に希望しているからという理由もある。 しかし、私は介護という仕事にジェンダーに基づく偏見を強く感じる。男性介護士には言わないが女性には平気な物言いの数々。 便落としを拭いていると「あんた、エタ(被差別部落民)の女やったん...
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介護労働の現場から〈16〉ホスピスの召使い

介護労働の現場から〈16〉 2014年09月01日 ホスピスの召使い トイレを使えるようになった宇田川さんは入居して1か月を過ぎて自宅に戻った。宇田川さんの暴力や暴言で何人もの利用者が来なくなったので責任者がやむなく継続使用を断ったからだ。宇田川さんは夫が迎えにくると「家に帰るんや」と大喜び、私は今後の夫との生活を思うと手放しで喜べない気持ちだったが正直ほっとした。 そのあと、稼働率を回復するため...