厚労省・労基署・病院が一体で医師の労働時間を隠ぺい

医師の働き方改革

東京地裁「宿直は労働時間」の判決

 26年4月で医師の働き方改革(時間外労働上限規制)の適用から2年が経過した。厚生労働省は「上限960時間を超える医師は減少傾向にある」と強調するが、その数字は必ずしも実態を反映していない。医療現場では罰則を回避し、法の網を潜り抜ける「宿日直許可」の濫用や、労働を「自己研鑽」にすり替える巧妙な手口が横行しているのが現実だ。

東京地裁判決

 医師の宿直をめぐり、東京地裁は26年3月16日、重大な判決を出した。都内大学病院の緩和医療科に勤務し、くも膜下出血を発症して現在も寝たきりとなっている男性医師(当時56歳)の訴えに対し、国が認めなかった宿直中の時間をすべて「労働時間」と認定したのである。

 この医師は宿直中、患者の急変対応や看取り、カルテ作成に追われていた。判決は「労働からの解放が保障されていたとはいえない」と断じた。焦点となったのは、労働基準監督署の許可を得ることで労働時間を対象外とする宿日直特例制度だ。

 本来、この許可は「ほとんど労働を必要としない」場合に限って労働時間規制の対象外とする特例である。だが、その実態は「働かせ放題」の免罪符として機能している。

 医師の時間外労働は24年4月に上限規制が導入された。だが過労死弁護団全国連絡会議の川人博弁護士が指摘するように、宿日直許可は「医師の労働時間の見せかけの数字を減らす便法」として悪用されている。

 宿直や日直が労働時間にカウントされないよう許可を取る医療機関は急増しており、20年に144件だった許可件数は、規制適用直前の23年には5173件へと激増した。今回の判決は、この〝隠れ宿日直〟による数字操作の一端が暴かれたものといえる。

教育研究も無償

 労働時間操作のもう一つの柱が、教育・研究を「自主的な勉強(自己研鑽)」とみなす手法だ。病院側は上限規制を見かけ上遵守するため、本来業務であるはずの研究や若手指導を「自己研鑽」として労働時間から除外するよう圧力をかける。名古屋大学病院や九州大学病院の事例に見られるように、勤怠システム上で教育・研究を選択できないようにする「システム的排除」も行われてきた。

 厚労省は24年1月に通知を改定し、大学病院の教育・研究は「当然に労働時間となる」と明示したが、現場では依然として「上司の指示がなければ自己研鑽」という解釈がまかり通っている。

 国立大学病院長会議によると、大学病院で働く40歳前後の「医員」の年収は平均403万円。国立病院機構の同等の医師が平均1139万円であるのと比較しても、その低さは際立つ。30代で手取り18万円、時給換算500円との告発もあり、彼らは生活のために他院での「バイト」を掛け持ちせざるを得ず、その合計時間は容易に過労死ラインを超える。

大学病院の経営危機

 なぜ、ここまで強引な労働時間の短縮が進められるのか。背景には、大学病院の深刻な経営赤字がある。千葉大学病院では、24年度の赤字が約27億円に達し、残業代の支払だけで年間20億円の負担増となった。物価高騰と人件費増に対し、公定価格である診療報酬が追いついていない。薬剤や材料費の値上がりに診療報酬改定が追い付かず経営を圧迫している。

 若手医師の教育環境の悪化や設備の老朽化も深刻で、病院経営陣は「患者を増やせ、残業は減らせ」との矛盾した号令を出し、長時間労働に疲れ果てた医師が大学病院を去る事態が後を絶たない。派遣元である大学病院が立ちゆかなくなれば、地域医療の崩壊に直結しかねない。

 「オンコール(待機)」も深刻だ。外出も飲酒も制限される待機時間は、最高裁判例に照らせば明らかに「労働時間」である。かつて産婦人科医のオンコールを労働時間から除外した判決(2010年大阪高裁)もあったが、精神的・肉体的拘束を伴う待機が休息でないことは明白だ。しかし、多くの現場でオンコールは労働と認められていない。

長時間労働の温存

 一般労働者の時間外労働は年720時間の上限があるが、医師は年960時間が原則とされた。さらに厚労省は激変緩和策として、上限を1860時間に拡大する特例を設けた。過労死ラインの2倍にあたるこの規制は、「宿日直許可」「自己研鑽」の隠れ蓑によって、過酷な長時間労働を温存させる結果となっている。「宿日直許可」の実態調査と即時撤廃が必要だ。

ちば合同労組ニュース 第190号 2026年5月1日発行より

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