ナフサ供給不足が示す世界の構造的問題 「暴力と戦争」で確保されてきた石油

ポテトチップス白黒

 ナフサ不足でカルビーのポテトチップス包装が白黒化したニュースが話題だ。医療現場ではさらに深刻で、軟膏容器など医薬品の基礎素材が不足し、健康や生命に関わる領域にも影響が出ている。  

 政府はこうした企業の対応を「売名行為」と批判し、ガソリン価格も補助金で抑え込み、社会が平穏であるかの装いに努めている。  

 一方、世間の議論は「イランと交渉して石油を確保せよ」「過剰包装をやめよう」といった方向に流れ、問題の構造的背景が見えにくい。本来問うべきは、日常生活を支える石油文明がどのような構造の上に成り立ってきたかではないのか。

暴力と戦争の歴史

 過去の石油危機と異なるのは、エネルギーだけでなく素材そのものの供給が危機に陥っている点だ。ナフサはプラスチック、溶剤、合成繊維、医薬品などの基礎素材であり、自動車や医療機器にも不可欠だ。素材の高度化で、サプライチェーンの一部が止まるだけで社会全体が麻痺する構造になっている。  

 デジタル社会を支える半導体産業も例外ではない。日本企業が世界シェア約9割を占めるフォトレジストも原料を遡れば中東のナフサに依存し、最先端チップ製造に不可欠なヘリウムも主要供給地カタールの施設被災で世界供給の3割が失われた。AI(人工知能)ブームの成長予測も安定した原油供給を前提としている。日本は石油の95%を中東に依存している。

 しかし、その中東地域はこの百年、帝国主義的支配や分断、戦争や内戦、権威主義体制の混在といった困難な歴史を歩んできた。  

 20世紀前半、イランの石油産業は英企業が支配し、利益の大半は英国側に流れた。第二次世界大戦後、民主的な選挙で選ばれたモサデク政権が石油国有化を実施し、主権回復として国内で支持を得た。  

 しかし1953年、米CIAと英MI6が関与したと公文書で確認されているクーデターでモサデク政権は倒れ、パフラヴィー朝が復権し強権的統治が強まった。

 79年のイラン革命後、米国との関係は悪化し制裁が長期化。直後のイラン・イラク戦争では、複数の研究で「イラク側に西側諸国の支援があった」と指摘されている。  

 その後も湾岸戦争やイラク戦争など戦争や内戦が続き、中東の石油は軍事介入や制裁、政権操作と結びついた構造の中で扱われてきた。

【宮田律氏の考察】石油 世界を動かした“血”の百年 ―石油がもたらした中東の紛争、動乱

〝資源確保〟の論理

 近年、世界は「経済安全保障」の名の下で資源を囲い込み、供給網を陣営ごとに再編・分断する動きが強まっている。こうした競争的な資源確保の構図は、中東で繰り返されてきた介入の歴史とも地続きであり、百年前の帝国主義を思わせる。

 国内の製造・物流現場ではすでに部品や材料の欠品によるライン停止が生じている。もし「もっと資源を確保せよ」と要求するだけなら、結果として武力的手段を容認する立場に近づきかねない。  

 百年前、多くの人びとが「自分には関係ない」と日常に追われるなか、気づけば戦争の巨大な兵站の一部に組み込まれていった。沈黙は構造の追認につながる。いま私たちが立つ歴史の分岐点は、イラン情勢と日常生活、そして世界で「戦争で命を奪うな」と訴える声と深く結びついていると思う。

ちば合同労組ニュース 第191号 2026年6月1日発行より

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