書評『普通の奴らは皆殺し ――インターネット文化戦争 オルタナ右翼、トランプ主義者、リベラル思想の研究』(アンジェラ・ネイグル著/大橋完太郎訳)


昨年の米大統領選でトランプ勝利のカギを握ったのが20代男性と言われている。
背景にはブログや動画、SNSで広まるサブカルチャー文化がある。なかでも20代男性層に広がる「オルタナ右翼」の存在を著者は指摘する。オルタナは「オルタナティブ(代替)」の略。従前の米社会にあった既存の右翼や白人至上主義に代わって登場した右翼を指す。

オルタナ右翼とは?
これは「ひろゆき(西村博之)」が開設した匿名掲示板「2ちゃんねる」から派生した米国の掲示板「4chan」から生まれた。主に、恋愛や自己啓発、スポーツ(筋トレ、格闘技)、ゲームなどが議論の対象だ。
10年代以降、高まるフェミニズム文化に対し、この掲示板では女性の前でおよそ言えないようなことを大っぴらに言い合う言論が急増した。既存のニュースとは違い事実の検証もない。掲示板を超えて独特の対抗文化として巨大コミュニティーに成長。このような男性中心主義者の集まった文化が「マノスフィア(男性だけの世界manosphere」と呼ばれるようになった。
マノスフィアの住民たちは次のように世界を見る。
「法廷における公正で平等な扱いはあらゆる人が持つ権利であり、男子のほうが学校の成績が悪い状態がずっと続いていることや高い自殺率、男性ならば悪く言ってもいいという一般的な文化は、すべて批判を受け改善されねばならない」(本書から引用)
彼らは自分の男性性に自信が持てず弱気で生きなければならない現代社会に強い不信感を持っており、「その原因は女性にある」と考える。選挙過程では民主党候補がバイデンからハリスに代わってより女性嫌悪感情に拍車をかけたとも言われる。

傷ついた若い男性たち
彼らの性格に共通するのがインセル(非自発的独身主義者)と呼ばるタイプだ。親密な人間関係や性的経験がないことに不満を抱いている男性とされる。
少子化という「孤独」の中でゲームやスマホ、ネット文化で生まれ育ったインセルたちは「不当な扱い」を受けていると女性を嫌悪していくようになったと著者は分析。
独身世帯が急増し少子化が社会問題になっている昨今では、シリアスで重い問題だ。最近、このインセルを描いたドラマ「アドレセンス(思春期)」がネットフリックスで話題となり、世界共通のイシューとなっている。

マノスフィアが表舞台に
テック業界のトップであるピーター・ティールやイーロン・マスクの影響も大きい。男性社会であるシリコンバレーで生まれたテック業界はマノスフィアの住人そのものだからだ。民主主義を否定し、一握りのエリートが支配する世界を願望する彼らは実際に世界を変えつつある。
一挙に反理想郷化している米社会だが、他方で反トランプデモがかつてない規模で起きていることも指摘したい。
この波は日本にも
これらの現象は世界中で起こっている。日本でも、石丸新党やN国党のような勢力が登場したのは偶然ではない。パワハラざんまいの兵庫県知事を批判する県議や、はては生理用品を置きたいと言っただけの議員に対して殺害予告メールが大量に送り付けられる時代になっている。激化する女性差別と闘い、団結をつくりだそう。
(ちば合同労組ニュース 第178号 2025年5月1日発行より)
