規制改革推進会議で労働規制緩和の動き

スタートアップ企業で労働法無視の規制緩和
内閣府の規制改革推進会議が5月28日に第23回会議を開き、「規制改革推進に関する答申」をまとめた。同会議は橋本政権下の「規制緩和委員会」や小泉政権下の「総合規制改革会議」を前身とし、安倍政権による再度の設置などを経て2016年に再編されて発足した。
内閣総理大臣直属の諮問機関で、現在の議長はJR東日本相談役の冨田哲朗。冨田はJR東日本の元社長で経団連の労働法規委員会の委員長として、この間の労働基本権解体―「労組なき社会化」攻撃の陣頭指揮を執っている。
今回の答申は「賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行」などを掲げ、①地方創生、②賃金向上・人手不足対応、③投資大国、④防災・減災の4つのテーマを掲げ、87の具体的事項が盛り込まれた。
地方創生では、農地集約や自動運転やライドシェア整備などを盛り込んだ。労働関係については「賃上げ」や「柔軟な働き方」という美名のもとで、実際には労働者保護法制の骨抜き・解体を狙う危険な提案が数多く含まれている。6月13日には、この答申を反映した「規制改革実施計画」が閣議決定された。
裁量労働制の拡大
答申では、スタートアップ企業(革新的なアイデアや技術を基に新しいビジネスモデルを短期間で急成長させることを目指す企業)を対象に、企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)や専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)の規制緩和、導入手続きの簡略化を打ち出している。さらに、管理監督者の範囲を広げる方針も明記した。
裁量労働制は、実際に何時間働いてもあらかじめ決められた「みなし時間」で労働時間を計算する制度であり、成果を理由に労働時間の上限を事実上撤廃する仕組みだ。
例えば実働10時間であっても「みなし8時間」で計算されれば、差額の2時間は無給(ただ働き)となる。裁量労働制のもとでは長時間労働が固定化し、労働者の健康と生活を脅かす。
厚生労働省の調査でも、裁量労働制適用者は通常労働者より労働時間が長い傾向が明らかになっている。この調査については、2018年に安倍政権の「働き方改革」関連法案の審議の際にデータ改ざん問題が発覚し、制度拡大が見送られた過去もある。
制度上は「労働者が時間配分を自由に決められる」とされているが、現実には納期・会議・報告など企業側の管理が厳しく、裁量性は形だけというケースが大半だ。裁判でも「裁量性がない」として違法とされた事例も多い。

例外扱いの拡大
答申は、「成果を出せるなら時間や場所に縛られたくない」という〝一部労働者の声〟を根拠に、制度緩和を正当化している。しかし、その裏で進むのは、若い労働者を中心にした長時間労働・低賃金の固定化である。
スタートアップ企業で働く労働者の多くは雇用が不安定で、生活基盤も脆弱である。そうした層を対象に労働時間規制を外すことは、「挑戦」や「自由」の名を借りた強搾取の合法化にほかならない。
労働基準法はすべての労働者に最低限の保護を与えるための法律であり、「スタートアップだから外していい」との発想は認められない。
裁量労働制の拡大は、
▼実労働時間の把握が困難になり過労死の危険が高まる
▼労働時間に比例した賃金が支払われなくなる
▼成果主義による拘束が強まり〝裁量性〟は形骸化する
――などの深刻な結果を招く。これは、国際的な労働運動が勝ち取ってきた1日8時間労働などの時間規制を破壊し、労働者保護の歴史的成果を逆行させる攻撃である。
規制緩和の乱発
今回の答申では、裁量労働制の拡大以外にも、労働者保護を後退させる提案が盛り込まれている。
- 副業・兼業推進(割増賃金計算での労働時間通算管理や健康確保の方法見直し)
- 年次有給休暇の時間単位取得の拡充(現行の年5日から付与日数の50%に拡大)
- 医師・看護師の宿直規定の緩和(オンライン対応の例外認定や複数病院間の兼務宿直)
- 介護施設の人員配置基準の「特例的柔軟化」(介護ロボットやICT機器導入を条件に緩和、人口減少地域での特例化)
- スポットワーク拡大のためのデジタル賃金払い(ペイペイなど)の普及促進
「効率化」や「柔軟化」という言葉で包装されているが、実態は現場の労働条件切り下げと人員削減を合法化する危険な方向であり、厳しく監視し阻止する必要がある。
ちば合同労組ニュース 第182号 2025年9月1日発行より

