映画紹介『一人息子』

一人息子

映画紹介『一人息子』

 小津安二郎監督の初めてのトーキー作品(音声付き映画)で1936年公開。信州の製糸工業で働く女工のおつねは、一人息子・良助の担任から中学進学について話を聞く。「これからの時代は学問を身につけなければ田舎でくすぶる」と言われ、母子家庭で余裕はないが一大決心で家屋敷や畑を売り払い大学までの進学と卒業後の就職での上京を許す。

 場面が変わり、息子から就職したとの連絡を受けて上京することに。だが良助は、場末の家で妻と赤ん坊と貧乏暮らし。市役所に勤めているはずが辞めて薄給の夜学教師をしている。良助は母を笑顔で出迎え妻子を紹介し、東京見物に連れて行く。だが、それは明日の生活費にも事欠き、母の期待を裏切った後ろめたさからだった。

 失望を隠し切れない母親、その失望に気づかないふりをする息子。やがて「お母さん、こんな今の僕に失望したでしょうね」「なんでそんなことを言うんだい」「僕だって…精一杯頑張ったんだ。だけど人の多い東京で地位を得るのは…」

 良助の妻は着物を売って金を工面し「これでお母さんをどこかに」と。しかし、隣家の少年が思わぬ事故で大けが。入院代に困る少年の母に「これを使って下さい」と渡す。帰郷前におつねは 「失望なんかしていない…頑張って欲しい」と告げ、製糸工場の同僚には「息子が立派になっていて本当に嬉しかった」と報告するのであった…。

 複雑に暗示する内容については紙面の都合で展開できない。舞台は満州事変や国際連盟脱退、やがて日中戦争から太平洋戦争に向かう時代。戦時の場面が出てこないが、明治以降の立身出世主義も含めて当時の世相を感じさせる。

(ちば合同労組ニュース 第179号 2025年6月1日発行より)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!