映画紹介『Black Box Diaries』

演説する伊藤詩織さん

性暴力―権力犯罪と闘う日々綴った 前例のないドキュメンタリー映像

安倍政権を直撃

 2018年から始まった日本における#MeToo運動の「顔」となった伊藤詩織さん。

 15年4月、ロイター通信のインターンとしてジャーナリストを目指していた詩織さんは、業界の重鎮であるTBSワシントン支局長であった山口敬之に無理やりホテルに連れ込まれ性暴力を受けた。

 彼女は意を決して被害を警察に訴え出た。証拠などが固まり5月に逮捕状が発行されるが、捜査員が山口本人を逮捕する直前で警視庁刑事部長中村格から突然ストップが掛かる。

 8月に書類送検されるが不起訴に。詩織さんへの性暴力事件は、安倍首相と懇意の記者と警視庁トップが関与してもみ消した政治的事件であり、権力犯罪だった。

 17年5月、彼女は実名の記者会見で加害者を告発。検察の不起訴判断に抗して民事裁判へ闘いを転じた。本人の想像を遥かに超える圧力の中、詩織さんはジャーナリストはおろか日本で生活できない状況に追い込まれる。

 困難に直面しながらも19年12月、東京地裁に「同意のない性行為」と認めさせた。続く二審も勝訴し、22年に最高裁も確定。しかも安倍銃撃と同じ日という「偶然」が重なった。8年間にわたる闘いは安倍政権との死闘であった。

世界的な注目

 彼女は「これからを生きる次世代のため」との思いで映画製作を展開。自身が監督となり、10年にわたる膨大な記録映像を編集。先行して海外で上映開始。アカデミー賞のドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、高い評価を得て57か国で上映された。

 しかし日本での上映は遅れに遅れた。元弁護士や支援者から、防犯カメラや証人の映像・音声使用の許諾や手法に関する批判が広がり、「待った」がかかった。ネット上で収拾がつかない「論争」が継続するなか、12月12月に日本での上映が決まる。ただ品川の映画館一か所だけだった

常識こえる作品

 映画は、性被害者が一人称で自身の葛藤や決断を映し出す映像が克明に展開される驚くべきもの。CG加工されたホテルの防犯カメラ映像は、性被害者への「疑念」を払拭する力を持ち、その「事件性」を物語る。圧倒的な真摯さとリアリティーがある。

 ネット上の「論争」については大きくは割愛したい。あえて一つ言うならば、彼女の闘いは、安倍首相や警察という国家そのものに対したった一人で立ち向かった前人未踏の闘いだった。この映画は、法律家や映像業界の中の常識や評価に当てはまらない、これまでの日本社会の価値観の枠を大きく越える「公益性」がある。

 労働運動の視点から言えば、政治権力を告発した被害者や協力した証人を社会運動こそが守らなくてはならない。韓国では「加害者は刑務所へ、被害者は日常へ」のスローガンで権力者の性犯罪を裁く運動が展開されている。日本の社会運動は、この映画を真剣に受け止めるべきだ。

 日本では否定的な「前評判」からスタートしたが、詩織さんに共感する投稿がネットや口コミで広がり全日満席に。上映館は全国37カ所に広がった。ぜひ上映館に足を運び、自身の目で見てほしい。

ちば合同労組ニュース 第186号 2026年1月1日発行より

映画『Black Box Diaries』伊藤詩織監督に聞く 「日本へのラブレター」届くと信じて(週刊金曜日 石橋 学・『神奈川新聞』川崎総局編集委員)

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