「物流危機」の正体は〝搾取の構造〟

労働条件の大幅な改善こそが人手不足の問題を「解決」する唯一の道
過労死の防止や労働環境の改善を図るとして24年4月からトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限規制が設けられた(それ以前は、ドライバーの労働時間には事実上制限がなかった)。
しかし、規制導入に伴い稼働時間が短くなり、会社の売上と利益の減少、ドライバーの収入減少が生じた。また深刻な人手不足や運賃上昇などが「社会問題化」している。さらには多重下請構造や荷待ち・荷役業務など物流業界が抱える構造的問題も指摘されている。
こうした中、高市政権は「物流の停滞」を口実に、上記の規制さえ骨抜きにする「規制緩和」へ舵を切ろうとしている。高市首相は、「働く意欲の尊重」の美名で労働規制の弾力化を主張。特に物流分野において、特定の条件や「本人の同意」があれば実質的に上限を撤廃、あるいは延長することを検討している。
「馬車馬のように働いてもらう」「ワークライフバランスを捨てる」という労働観を持つ高市首相は、荷主の納期遵守の要求や、低賃金構造によって「残業しなければ生活できない」状況に追い込まれているドライバーに対し、「稼ぎたいのなら働かせる」という論理ですり替えられた“自由な意思による同意”を主張している。だが、これは実質的な強制ではないのか。
脱法的賃金制度
過酷な労働環境を支える「装置」の一つが、運送業界に深く根を張る脱法的な賃金体系だ。その象徴が、現在最高裁で争われている「サカイ引越センター残業代訴訟」だ。
24年5月、東京高裁は一審に続き、サカイ引越センターに対し未払い残業代等約1570万円の支払いを命じた。この訴訟の争点は、同社が採用していた「業績給」などの手当が、法的な「出来高払制(歩合給)」に該当するかどうかという点にある。
出来高払制の場合、残業代の計算において「1・0倍分(基本給相当)」は既に歩合給に含まれていると見なし、割増分の「0・25倍」だけを支払えば良いとする計算式(労基法施行規則19条1項6号)が存在する。
サカイはこの仕組みを悪用し、個人の裁量や成果とは無関係な手当を強引に「出来高払い」と定義することで、残業代を本来の5分の1に圧縮していた。だが東京高裁は「労働者の努力で売上をコントロールできる余地がなく、出来高払制とは認められない」と判断した。
会社側が巧妙に「歩合給」と装っても、それが単なる「残業代逃れ」の手口であれば、許されないことが明確に示された。当然の判断だが、近年、運動業界で同様の計算式が広がっていたことを考えると大きなインパクトを持つ。
賃金抑制のもう一つの柱が「固定残業代(定額残業代)」だ。これは20年に最高裁で確定した「国際自動車事件」が有名だ。タクシー大手の国際自動車では、売上から算出される歩合給から、残業代と同額を差し引く計算式が用いられた。これでは、残業をすればするほど歩合給が減り、いくら残業をしても実質的な賃金が増えない。
最高裁は、この制度に対し、「通常の労働時間の賃金」と「割増賃金」が判別できるだけでなく、その手当が真に「残業に対する対価」として支払われているかを厳格に審査すべきだと判示した。
最高裁判決は、労働基準法37条の目的は「長時間労働の抑制」にあると強調した。残業をすればするほど時間単価が下がるような制度は、法の趣旨に反する、と言える。
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無償の荷積・荷待ち
ドライバーの長時間労働の大きな要因の一つに、荷主や元請け企業から強いられる「荷役・荷待ち」がある。25年12月、公正取引委員会は物流大手「センコー」に対し、下請法違反として再発防止勧告を行った。同社は、下請けの運送業者に対し、無償での荷積み・荷卸しや、2時間を超える恒常的な荷待ちを強いていた。
運送業界では「荷物を運ぶこと」以外の作業がサービスとして当然視されてきた。だが26年1月施行の「中小受託取引適正化法」では、これらの附帯業務の対価を契約書に明示することが義務付けられた。今回の公取委の措置は、こうした慣行を、中小企業の利益を不当に害し、労働者の長時間労働を誘発する「違法な経済的利益の提供要請」であると断定したことになる。
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上記のような「0・25倍計算」や「名ばかり歩合給」を廃止し、労働時間に見合った正当な割増賃金を、すべての時間外労働に対して支払わせること、さらには基本給の大幅アップが必要だ。低賃金や長時間労働をはじめとした労働条件の大幅な改善こそが人手不足の問題を「解決」する唯一の道だ。
ちば合同労組ニュース 第186号 2026年1月1日発行より
