介護労働の現場から〈05〉介護は奉仕?

介護労働の現場から〈05〉
2013年08月01日

介護は奉仕?

「入居者2名につき1名の手厚い介護」というよくある宣伝文句は、月あたりの総時間数(昼間)を従業員数で割ったものを指す。しかしパートも1名として換算し、実際は24時間介護なので、実態とは大きく乖離する。いつも利用者2名の傍に1名のヘルパーが就いているという意味ではない。
介護の現場は、スタッフがお互いをカバーしながら常に気を抜けない緊張を強いられる。転倒による骨折(寝たきりになる可能性大)、誤飲や嘔吐による窒息、風呂で溺死、脳出血や心筋梗塞の発見の遅れ、褥瘡、脱水、栄養失調……等、仕事のあいだ中ずっと気を張り詰めた状態が続く。肉体的にも、身体が動かないお年寄りを支える入浴や排せつ介助、トランス(ベッド、車いす、椅子への移乗)などで、体力を使い切る。

そういった緊張が続く仕事はめずらしくもないかもしれない。

しかし、高齢者介護は、コミュニケーションがとりにくい人間を受容し、命と暮らし全般をサポートしていかなければならないという、そのミッションに労働者自身が苦しむ。
お年寄りには一切責任がない。彼らにとっては、自分の了解なしに、あるいは認知症で判断不可能なまま、突然放り込まれた場所で、周りは知らない他人ばかり。おとなしく座って、黙って食事をして、言われるとおりに排せつ、入浴してなんて無理でしょ。
例えば、血相変えて怒る、泣き叫ぶ、物をこわす、衣服を脱ぐ、?みつく、便を投げつける…。一人が始めると、他の利用者に伝染する。
「人殺しぃ!」「死ねぇ」「警察に言うぞぉ」「誘拐した。金目的か」「性悪おんな」…などの言葉の暴力が私に投げつけられる。

そんなこと、これまで60年の生涯で一度も言われたことがない、最初はガーンとショックを受けた。それでも、何事もなかったように利用者に接し続けるのは高齢者を支えるという使命感からだ。
介護という仕事はそんな仕事だ。「うるさい! クソばばあ」「精神病院へ行け」「世話してもらっている立場でよくそんなこと言うね」なんてね……心の中でも口に出せない。精神的なストレスが内に溜っていく。
ところが、この施設のトップである27歳の管理者は、さすが体育会系で、この手の扱いには慣れていた。利用者にタメ口をきき、「メシ食わないと、もうやらねえぞ…なんちゃってね」。こんな介護のNGも、それで、利用者がニコニコしながら食べてくれ、こちらのストレスが少しでも発散できればいいのではないかと思った。

介護職経験者は中高年の女性が多い。いわゆる「おばヘル(おばさんヘルパー)」で、ヘルパー2級の講師も全員おばヘル出身者だった。偏見を承知で言えば、彼女たちは介護=奉仕の考えがこびりつき、労働者として介護の困難をどう切り開いていくかという発想が欠落している。

(あらかん)
(ちば合同労組ニュース37号から)