人手不足が加速する建設業界のいま

重層的下請け構造が生む低賃金と雇用不安定の連鎖
建設業界で標準労務費制度を導入
ウクライナ戦争や円安による輸入インフレに加えて、近年「人手不足インフレ」が指摘される。その焦点の一つが建設業界だ。
昨年度上半期の東京23区の新築マンション平均価格は、前年同期比20・4%上昇の「1憶3309万円」。建築費指数は15年を100とすると昨年11月時点で140・7、過去最高を更新し続けている。
資材高に加え、「職人の不足」に伴う「人件費の上昇」がコストを強力に押し上げているとされる。
人件費の上昇と言っても、実際には二極化の進行が実態だ。建設業界は従業者4人以下の企業が半数以上を占め、その割合は増加。大企業(ゼネコン)で働く労働者はごくわずか。「賃上げして労働者を確保し価格転嫁できる企業」と「転嫁できずに淘汰される企業」の選別が容赦なく進む。建設事業者はピーク時(1999年)から約2割減、就業者数はピーク時(01年)から約3割減だ。
建設業界の人手不足と賃金の矛盾は地方でも深刻だ。宮城や岩手では、建物の土台を担う「型枠工」の不足が着工遅延の主因だ。
型枠工の設計労務単価は、12年前と比較して、東京が86%上昇したのに対し、宮城や岩手は約2・1倍に急騰した。型枠工は技能習得に10年かかると言われる。高齢者の引退が進む一方で新規入職者は限られている。
公共工事で予定入札価格で職人を確保できず入札不調が相次ぐ事態となっている。

87万人の人手不足
こうした状況の中で今年1月、改定建設業法の全面施行で、建設業界に「標準労務費」制度が導入された。
背景には、他産業と比較して約16%も低いと言われる建設業の賃金水準がある。24年4月から始まった残業上限規制で労働時間は短縮されたが、現場では「働ける時間が減り、賃金がさらに減った」との声も強い。
低賃金と過酷な労働環境を背景に建設業界は、2040年には87万人の人手不足が予測されている。国が「標準労務費」という形で民間企業に介入するのは他産業では類を見ない事態ではある。だが「労働者のため」というより、「このままでは道路も橋もビルも作れなくなる」という国家的な危機感の表れなのだ。

多層的下請け構造
「標準労務費」とは、国(中央建設業審議会)が職種・地域ごとに「これ以下の労務費での契約は認めない」と勧告する基準額だ。
建設業界は、元請けから一次、二次と階層が下がる重層的な下請け構造だ。下層に行くほど中間経費(中抜き)が発生する。受注競争が激化すれば、元請けは利益確保のために下請けへの支払いを削り、最後は現場労働者の賃金が「調整弁」として削られる。
今回、国はこの構造に手を付けないまま「基準」だけを示したため、以下のような懸念の声も多い。
- 基準が上限になる恐れ 本来は、これ以上は下回ってはならないとする最低ラインだが、経営者が「国が決めた額だからこれ以上は出せない」と、賃上げを抑える口実に悪用する恐れがある。
- 不十分な基準額 ベースとなる「公共工事設計労務単価」は、過去の低い賃金実態を調査して作られるため、必ずしも「生活できる賃金」とは言えない。
- 脱法運用の横行 見積書に記載があっても、社会保険料(法定福利費)を労務費から天引きして帳尻を合わせたり、実質労働者を「一人親方」扱いして経費を押し付けたりする不正の恐れ。
- 監督行政が不十分 これらを監視する「建設Gメン」は全国でわずか135人。47万社を超える建設業者を監視することは、物理的に不可能だ。
労働組合が必要だ
建設労働者の大半は小規模な工務店や一人親方だ。個人でゼネコン相手に「標準労務費を守れ」と言えば、契約を打ち切られる可能性も高い。労働組合に加入し、地域・職種を越えて団結すれば、それは「組織vs組織」の正当な団体交渉となる。労働組合の背景があれば、標準労務費も一つの闘う武器になりうる。
会社が標準労務費を原資として受け取っているのに、労働者の賃金が変わらないのはなぜか? この矛盾を突き止め、団体交渉で是正させることも可能だ。それができるのは、現場の実態を知る労働者だけだ。
賃金問題だけでなく「週休2日制」や「退職金制度」「労災補償の拡充」など、労働条件の抜本的な変革が必要だ。激増する外国人労働者の人権や労働条件を守る闘いも必要だ。これを実現するのは労働者の団結した力だ。
ちば合同労組ニュース 第187号 2026年2月1日発行より

