回転寿司 労働から考えるスシロー事件

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回転寿司 労働から考えるスシロー事件

低価格武器に10年で市場規模1・6倍に

 いま回転寿司チェーン店で客による「迷惑行為」の多発が問題になっています。一連の騒動の発端となったのが、湯呑みや醤油差しなどを舐め回す高校生の動画がSNSで炎上した事件(「スシローペロペロ事件」)です。
 当該の高校生は強い社会的批判を浴び、学校も中退に追い込まれ、多額の損害賠償請求も予測される。確かに面白がって投稿した若者の行為は間違っています。しかし、この事件を引き起こした大手外食チェーン会社のあり様は検証されねばなりません。効率化を過度に追求し、儲けを優先させた新自由主義が食の安全を崩壊させたのです。

デフレの象徴に

 飲食産業はコロナで大きな打撃を受けました。3年が経ってもコロナ初期に解雇・リストラで減少した労働人口は回復していません。その中で飲食業界のムチャクチャな労働環境が際立っています。
 外食産業で「勝ち組」とされるのが回転寿司業界です。
 もともと江戸前寿司は屋台で食べる庶民の食事として発達しましたが、明治後期~大正期に高級店が登場。戦後、現在のような店内にカウンター席がある寿司店が定着しました。
 その後、スーパーなどの持ち帰り寿司や回転寿司が登場し、80年代に全国に普及、高級店との二極化が進みました。さらに90年代に牛丼やハンバーガーと並んでデフレの象徴になり1皿100円の寿司が登場し、00年以降、郊外型の店舗が増え、市場規模が一気に拡大しました。
 もともと回転寿司はファミレス以上に労働力集約型でしたが、チェーン店は競って徹底的なコストカットを図り、ファミレス並みの「安い」食文化へと転換させました。
 その核心は店舗の徹底的な人員削減です。寿司店なのに職人を置かずシャリを握るのはロボットで、そこに加工済みのネタをのせるだけ。注文はタッチパネル。
 それでも労働者はそれなりの数が必要で一店舗に従業員は約20人、正社員は1~2人で残りは非正規雇用の低賃金労働で担われているのです。

極限的な効率化

 そもそも、高校生がイタズラ動画を投稿できたのも、注文も配膳も自動化し、テーブルに店員の目が届かないレイアウトにしたことに大きな原因があります。寿司を握る人と食べる人が向かい合った食文化は見る影もない状況なのです。
 いまや予約から注文、会計まで誰とも話せずに食事ができます。コロナ禍の事情もあり、若い世代は、会話もなく、人と接しない食事が「当たり前」になってしまいました。
 この間、回転寿司業界では、おとり広告(スシロー)や営業秘密の不正取得(カッパ寿司)など業界の闇が次々に浮き彫りになっています。そのような中で客のモラルもまた崩壊しているのです。
 こんな逆境の中でも、地域で家族が交流できる店をと懸命に労働者は働いています。スシローに送られる「応援」は、会社ではなく本質的には店で働く労働者への激励であるはずです。
 回転寿司業界の動揺の中、食の「安全」は労働者の懸命な努力で保たれています。飲食店業界にも労働組合を結成しよう。(この記事は、回転寿司店で働く組合員からの聞き取りで書きました)

 ちば合同労組ニュース 第152号 2023年03月1日発行より