生きる(1952年 黒澤明監督)

労働映画

映画紹介 『生きる』(1952年 黒澤明監督)

 有名な黒澤映画です。題名となった「生きる」という普遍的テーマを描いた映画ですが、喜劇であることを忘れて色々力説したくなるのが名作の持つ力なのかなという感じです。
 市役所で市民課長を務める渡辺は、かつての仕事への情熱を忘れ、書類に黙々と判子を押すだけの無気力な日々。市役所内は縄張り意識が強く、住民の陳情はたらい回し。
 渡辺は体調不良で医師の診察を受ける。医師から軽い胃潰瘍(いかいよう)と告げられるも胃ガンで余命わずかと悟る。不意に訪れた死の恐怖。彼はあと1か月で30年間無遅刻無欠勤だったが市役所を無断欠勤し、パチンコやダンスホール、ストリップショーを巡る。ある日、おもちゃ工場に転職した元部下と遭遇。渡辺は若い彼女の奔放な生き方、生命力に惹かれる。自分が胃ガンだと伝えると彼女は工場で作ったおもちゃを見せ「あなたも何か作ってみたら」。その言葉に心を動かされた渡辺は「まだできることがある」と市役所に復帰する。
 5か月後、渡辺は死ぬ。通夜の席で同僚たちが渡辺の様子を語り始める。渡辺は市役所に復帰後、保守的な役所の幹部らに粘り強く働きかけ、ヤクザの脅迫にも屈せず、住民の要望だった公園を完成させ、雪の降る夜、完成した公園のブランコに揺られて息を引き取ったのだった。
 事情を知った記者や焼香に来た住民を前に気まずくなった助役ら市幹部が通夜の席から退出すると同僚たちは口々に「お役所仕事」への疑問を語り、渡辺の功績を讃える。しかし翌日、市役所では新課長の下いつも通りの「お役所仕事」が続く。だが新しい公園では子どもたちの笑い声が…。主演の志村喬の爛々と光る眼差しは怪演で印象が強い。

ちば合同労組ニュース 第92号 2018年03月1日発行より