映画紹介『越境者』

『鉄道員』で有名なピエトロ・ジェルミ監督の1950年の映画。イタリア社会の底辺に生きる庶民を主人公にしたネオレアリズモ(新現実主義)作品の1つ。
映画が描くのはシチリア島の炭坑労働者と家族の一群。島は産業発展から取り残され、労働者や小作人は貧困に苦しむ。米移民も多くマフィア発祥の地となった。映画は閉鎖になる硫黄鉱山での籠城シーンから始まる。闘いは敗北に終わり、労働者たちは失業する。そんな時に村を訪れたブローカーはフランスに行けば高い賃金の仕事があると吹聴。彼らは家財を売り払って旅費を工面し新天地を求めて故郷を立つ。
イタリア本土にわたり汽車でローマへ北上。ブローカーが旅費の持ち逃げを図り大騒動に。一行はローマ警察に拘束され帰郷を命じられるが、もはや戻る家も財産もない。幸い通りかかった農場で収穫の仕事を得る。しかしゼネスト中の農業労働者のスト破りの仕事だったのだ。スト労働者たちと衝突し、一行は農園から放り出される。
途中で命を落とす者や苦難に絶望し故郷へ戻る者など脱落者も。ようやく雪深いアルプス山麓へ。かつてのハンニバル将軍のローマ進軍の逆ルートだ。果たして厳しい雪山の国境を超えることができるのか…
イタリア・ネオレアリズモ映画には『無防備都市』『自転車泥棒』など名作も多い。労働者階級の生活や戦争(ファシズム)などの残酷で不公平な世界の現実を鋭角的に描く。貧困や失業、社会の理不尽に苦しむ労働者像を素人が演ずることも多い。暗く苦しい場面も多いが、連帯を感じる場面もあり最後は労働者が力強く生きる姿を予感させる。