書評『新しい階級社会  ――最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』 

 日本の労働者階級はどんな現実に直面しているのか。著者の橋本氏は4万人以上の膨大な大規模調査を元にコロナ後の労働者階級のあり様を明らかにしている。本書新しい階級社会は、この問いにデータと構造分析を通して展開する。著者は、現代の日本社会を5つの階層に分類し、格差の現実に警鐘を鳴らす。

  1. 企業の経営者などの資本家階級(250万人)
  2. 農業や自営業を営む旧中産階級(658万人)
  3. 企業内の専門職や管理職を中心とした新中産階級(2051万人)
  4. 現場で働く正規雇用の労働者階級(1753万人)
  5. ⑤非正規雇用の「アンダークラス」(890万人)

 こうした階層は、収入格差にとどまらず、雇用の安定性、社会参加の度合いなど様々な指標によって分断が明確だと言う。「階級の壁」――つまり人の行動を制約し、自由を奪う壁が非常に大きくなったと指摘している。この壁は、いま所属する階級から抜け出すことを妨げ、あるいは他の階級への移動を妨害する。いわゆる「親ガチャ」は、その一端を示す。

労働者間の分断

 さらに著者は、労働者階級もまた、雇用の安定した「正規労働者階級」と非正規労働者からなる「最下層階級」に分裂しているとする。格差拡大は男女差も拡大させた。コロナで多くの女性が最下層階級への転落を余儀なくされた。また「弱者男性」との言葉があり、若者のアンダークラス化の増加も浮かび上がっている。

 労働人口の4割となった非正規労働なしに日本社会、ビジネスモデルは作動しない。アンダークラスは単身世帯率が非常に高く、少子化の最大の要因でもある。少子化が止まらなければ、正規労働者や中間層階級(の子弟)からアンダークラスが補完されていくことになる。でなければ、外国人労働者がより流入する。こうした日本の根本的社会構造に問題あることがこの本から浮かび上がる。

政治意識の動向

 本書は日本の格差社会の絶望的な現実を立体的に描いているが、いくつか展望を指摘したい。注目したいのは各階級ごとの政治意識の動向だ。

 資本家階級や新中間階級は、より格差を肯定し、新自由主義的政策を支持している。男性が多く占め、より格差を肯定し、新自由主義的政策や排外主義的政策を支持している。この部分が極右勢力を支持する「岩盤支持層」を形成している。

 他方で、格差や新自由主義的政策に否定的な層は女性やアンダークラスが中心だ。しかし、この階層は選挙の投票率も低く政治活動も不活発。つまり、女性やアンダークラスが支持する政党が「不在」なのだ。

 もし、日本社会が変化するとすれば、アンダークラスに届く政党の登場が鍵を握っていることが数字から浮かび上がってくる――こう著者は指摘する。昨年の米大統領選では、斜陽化する工業地帯の労働者階級がトランプ支持に動いたが、これらの動向が日本社会の未来を左右することが数字から読める。

ちば合同労組ニュース 第182号 2025年9月1日発行より

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