使用者の誠実交渉義務について
使用者には直接会って誠実に協議する義務がある
使用者には、労働者の代表者と誠実に交渉にあたる義務があります。使用者は、たんに労働組合の要求や主張を聴くだけでなく、それらの要求や主張に対しその具体性や追求の程度に応じた回答や主張をなし、必要によっては論拠を示したり、必要な資料を提示したりする義務があります。
さらに使用者には、合意を求める労働組合の努力に対しては、そのような誠実な対応を通じて合意形成の可能性を模索する義務があります。
他方で、使用者には労働組合の要求や主張を受け容れたり、譲歩する義務まではありません。十分な討議を経ても双方の主張が対立し、意見の一致を見ないまま交渉打ち切りとなることは誠実交渉義務とはならないと解されています。
誠実交渉義務は、直接会って協議する義務を内包しています。文書の往復や電話などによる協議は、当事者間の合意があれば別ですが、合意がない限り誠実交渉義務を果たしたことにはなりません。
誠実交渉義務は、労働組合の交渉過程での要求内容や態度の変化によって影響を受ける相対的・流動的義務であり、諸般の事情の総合的な考慮が必要とされます。
不誠実の典型例
誠実交渉義務に違反する典型例には次のようなものがあります。
*合意達成の意思のないことを最初から明確にした交渉態度(例えば「労働協約締結の意思はない」という態度を取り続ける)
*実際上交渉権限のない者による見せかけだけの団体交渉(交渉担当者が「承っておく」「社長に聞いて返事します」とだけ言い続ける)
*拒否回答や一般論だけで議題の内容について実質的検討に入ろうとしない
*従来の基準等からかけ離れた内容の回答をし、しかも論拠に関する具体的説明をしない
*組合の要求・主張に対する回答・説明・資料提示などの具体的対応をしない
*使用者が、組合の要求への回答において、合理性の認められない前提条件を付してそれに固執する
交渉の再開
労使双方がそれぞれの主張・提案・説明を出し尽くし、これ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至った場合には、使用者は交渉を打ち切ることが許されるとされますが、そうであっても、交渉再開が有意義なものとなることが期待できる事情の変化が生じれば、使用者は交渉再開に応じる義務があります。
団体交渉の結果、達成された合意を書面(労働協約)にすることは、基本的に誠実交渉義務の一内容と考えられています。合意された協定書への調印拒否は不当労働行為と判断されます。
少数派組合
複数組合が併存する場合の少数派組合に対する団体交渉については、各労働組合にはそれぞれ固有の団体交渉権・労働協約締結権が保障されているので、使用者はそれぞれの労働組合と誠実に交渉を行うことが義務付けられています。労働組合の性格や運動方針などによって差別的取り扱いをすることは当然許されない。
もっとも、それぞれの労働組合で使用者に対する交渉力に差異があるのは当然であり、使用者が各労働組合との団体交渉においてその交渉力に対応して態度を決したり、差異が生じることは是認されます。
たとえば、同一時期に同一内容の労働条件について提案を行い、多数派組合との間に一定の合意が成立しても、少数派組合と間では意見の対立が大きいことはありえます。この場合、多数派組合との間で合意に至った内容での妥結を求めること自体は是認されるとされます。
しかし、①同時期に並行して団体交渉を行わない、②提案の時期・内容、資料提示、説明内容などに差異を設けること、などは誠実交渉義務違反となります。
労働条件変更での使用者の交渉申入義務
労働契約法上、就業規則の不利益変更が労働協約を規律する効力を持つためには、変更の合理性が必要とされ、変更について労働組合と協議したかどうかもその合理性の有無の判断要素となります。
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団体交渉の開始にあたっては、交渉の当事者、担当者、交渉事項が明確にされることが必要であり、通常は、組合が団体交渉申入書において明らかにします。
交渉の日時・場所・時間の指定、予備折衝などについても、使用者の態度によっては誠実交渉義務に違反することになります。
ちば合同労組ニュース 第128号 2021年3月1日発行より