安倍政権の労働大改悪をどう見るか?
団結して闘う素晴らしさ復権させたい
安倍政権は16年通常国会で「残業代ゼロ法」「解雇の金銭解決制度」を狙っています。
15年9月には改悪派遣法が成立・施行されました。
これまで派遣労働は、原則として臨時的・一時的業務に限定され、正社員から派遣への置き換えができないよう受け入れ期間は原則1年、最大3年となっていました。
今回、この原則が取っ払われました。1985年の法制定以来の抜本的改悪であり派遣の全面解禁です。派遣先企業は3年で人を入れ替えれば永久に派遣を使い続けることが可能となり、派遣労働者は3年ごとに解雇される。
これは間違いなく社会の様相を一変させます。3年後に何が起きるのか?
隣の韓国では07年に「非正規雇用者保護法」が制定されました。2年を超えて労働者を雇用した場合、無期契約とみなし、2年を超えて派遣労働者を使用した場合は、直接雇用を義務付けました。それとしては画期的な法律です。
しかし2年以内の「雇止め」には制限がまったくありませんでした。こうして韓国社会では施行から丸2年を前にして適用逃れのための大量解雇が発生したのです。
先月号の組合ニュースで紹介した韓国映画『明日へ』はこの時の解雇と闘いが題材です。韓国の巨大流通グループ(イーランド)経営陣は、法律施行2年を前にして、適用を逃れるため非正規労働者を大量解雇(約500人)し、業務外注化を強行しました。
韓国で非正規(派遣)労働者の大量解雇の嵐が吹き荒れたのです。
転換点の95年
日本では1995年に財界(日経連)が「新時代の『日本的経営』――挑戦すべき方向とその具体策」を発表しました。この報告で日経連は「雇用ポートフォリオ(組み合わせ)」という考え方を提示し、終身雇用と年功賃金制度を否定し、労働者の本格的な選別方針を打ち出したのです。
報告は、労働者を①長期蓄積能力活用型、②高度専門能力活用型、③雇用柔軟型の3つに分け、経営のコストパフォーマンスに配慮して、これらの雇用形態を組み合わせた人事戦略を展開することを雇用の基本戦略として示したのです。
従来型の雇用形態は①のみ。その対象は全労働者の1割だけ、残り9割は非正規化・外注化して、必要に応じてその都度、導入するというもの。
これがその後の派遣・非正規拡大の転換点となったことは明白です。派遣の規制緩和が一挙に進行し、日本全国のオフィスや工場で契約社員や派遣などの複雑な雇用形態が入り乱れ、外注化や分社化で違う会社の労働者が一緒に働くようになりました。
また年金支給年齢の繰り上げとセットで定年延長や再雇用が制度化され、50歳代の大幅賃下げや非正規化も当たり前のようになりました。
こうして製造現場だけでなく自治体や郵便局、NTT……あらゆる職場で非正規や外注化が普通になりました。
今回の安倍政権の労働法の大転換は派遣の全面解禁にとどまりません。2000年代の小泉政権「聖域なき構造改革」を大きく超える事態が目の前に迫っているのです。
争議の個別化
残業代ゼロ法は、労働基準法における労働時間規制の適用除外です。
8時間労働制は、労働者の健康を保障するために、休日を除き、労働者に1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させることを禁じる制度です。産業革命以来、世界中の労働者が血を流して闘い取った権利です。これを適用除外にするのです。
解雇の金銭解決制度は、裁判で「解雇は無効」の判決が出ても金銭を払えば復職させなくてもよく「解雇自由」と指摘されます。それはその通りであると同時に労働運動の心臓を打ち破るような致命傷を与える攻撃として、私は強い危機感を持っています。
この間、ADR(裁判外紛争解決手続き)や労働審判制度など、労働事件を個別化させる「紛争解決システム」が制度化されてきました。金銭解決制度は、この個別化された労働争議をさらに金銭化していくものではないのか。
ひとことで言えば新自由主義です。労働者を個々の経済主体としてバラバラにして、企業と労働者を(制度で調整して)対等な経済・法律主体であるかのように扱って、最終的に金銭でのみ評価して争議を取り扱う考え方です。
現実問題として労働者の団結が破壊され、こうした個別紛争システムを必要とする労働者がいるのも事実ですが、俯瞰的・全体的にとらえれば、労働組合のもとで労働者が団結して闘う、職場にこだわって闘うことの全面的な否定・破壊を意図した攻撃です。
安保・戦争、雇用・労働、医療・福祉……社会全般で大変な状況が迫っています。こうした状況と切り結び労働者が団結して闘うことに展望があることを示すのが労働組合の任務です。2016年、大いに闘おう!(S)
ちば合同労組ニュース 第66号(2016年1月1日発行)より