連載・介護労働の現場から〈最新スペシャルレポート⑥〉

ブラック会社のルール

●破れかぶれの報復

 私の手元には、会社印のある採用通知書、雇用契約書、退職証明書。さらに発行された健康保険証と雇用保険被保険者証のコピー。タイムカードのコピーはないが、出勤日は手帳や日記にも記録してある。1か月分の研修資料、施設のマニュアル。書類だけでも、これらは採用も1か月の勤務実績もあったことを証明している。
 一方、会社は、主張を貫くには、私に関する職員名簿や出勤簿、賃金台帳など、すべてを改ざんしなければならないではないか。破れかぶれの報復はすぐに破たんし、会社のルールは国の法律の前にこうべを垂れるのは明白だと思った。
 なぜ、本社人事課や施設長などの中間管理職が、明らかに違法な会社のルールやブラックな経営に随うのだろう。

●悪の凡庸

 介護施設で働いていると、まるで収容所のようだと感じることがある。起床、就寝、食事、入浴。排せつまでも時間が決まっており、毎日何度もバイタル、食事量や排せつ状態などが詳細に記録され、食べたくないのに食べるように注意され、便がでなければ下剤、尿が少なければ水分補給。
 現場では、介護職が指示命令する立場になり、効率化するために、利用者ができることも取り上げて代わりにやってしまう。長年、施設で働いていると、管理統制のルーティンワークに何も感じなくなる。同調圧力もあり、右から左に流すだけの「作業」に慣れきると、経営者(本社)から施設長を伝わってくる「会社のルール」の違法性、感情的な不快感すらもマヒしてしまっている。
 まじめで勤務態度もいい職員ほど、会社のルールに忠実だ。ハンナアーレントは、ナチの戦犯アイヒマンについて、「アイヒマンは上の命令に忠実に従っただけの凡庸な官僚にすぎない。罪の意識がなかった。」と記述している。

●追い詰められた者の攻撃

 たびたび報道される高齢者施設での介護職員による事件。当の職員は、ほとんどの場合、自覚もなく、虐待、傷害、殺人をやっていることも多い。
 きっかけとなる原因は、入居者が何度もコールを鳴らす、何度も粗相をする…等、ささいなものだ。いちいち対応していては仕事が回らないということで頭が一杯になると保護しなければならない立場の人間に攻撃の矛先を向ける。それは事件を起こした職員個人の属性やストレスの問題ではなく、介護労働の体制や労働環境が導いた必然、起こるべきして起こった事件ではないだろうか。
 特にブラック施設では、会社のルールがすべて。「決まりだから」で、仕事への判断や決定の主体性が損なわれた状態で教育され、連日の過酷な労働でさらに判断力や分析力がもぎ取られる。
 アーレントは「思考することで、人間の善悪や感情がよみがえり、強くなる」という。しかし「介護=弱い人の立場にたつ」ことと、「会社のルールに従う」ことの相反性のバランスをとりながら働くことの危うさ。私にとってはつらい一か月で、今もトラウマとして残っている。
(あらかん)(つづく)

ちば合同労組ニュース 第93号 2018年04月1日発行より