連載・介護労働の現場から〈30〉 煎茶or玄米茶

介護労働の現場から

連載・介護労働の現場から 〈30〉

煎茶or玄米茶

応募した有料老人ホームの面接に行き、ホテルのような外観と内装に驚いた。

私の面接の前に一人いて同じ部屋で待たされたので、自己紹介し合い、面接後に近くのホテルのカフェで待ち合わせた。
Mさんといい、夫と離婚してから介護の仕事をはじめ、現在55歳、うつ病の娘と2人暮らしだと語った。とても気が合ったので一緒に働けるといいねと言って別れて電車で家に帰ると、面接した介護課長から早速、採用の電話があった。「Mさんにあらかんさんも採用ですと伝えると、とても喜んでいらっしゃいましたよ」
2人同時入社は心強い。シフトが違う日もメールでやりとりした。
職場は9階建ての介護付き有料老人ホームで入居者が健康な時は3~9階の一般居室で、介護が必要になると、その居室から出て1~2階の介護居室に移る。
一般居室の支援が15人、介護居室24人に対し、看護職が15人、理学療養士、作業療養士を含む介護職が20人で、24時間対応の介護を提供している。
「金持ちの嫁」なので髪型や化粧、制服やエプロン着用、言葉遣い、立ち居振る舞いがチェックされる。また、40人近くの顔と名前を覚え(プラス職員30数人)、さらに、入浴の仕方や食事や飲み物の好き嫌いも個人対応で、間違いがないようにしなければならない。まるで接客業だね。
Mさんはそれが苦手で、「名前が覚えられない。車いすに名前入れてほしいよね。昼食のときに玄米茶の人に煎茶出したら、Mu係長が走ってきて謝ってくれたのはいいけれど、帰る時間になっても残されて、きつく怒られた。もう嫌だ」と私に電話をかけてきた。
まだ3日目だ。私はメモ見ながら、お茶を運ぶ。「違う」と言われる前に「遠藤様、ぬるめの玄米茶でよろしかったですか?」と訊くのだ。お金持ちは人前では召使には寛容だ。「あら、ぬるめなんだけど御煎茶なのよ。でも、玄米茶もたまには飲んでみようかしら」。よし、覚えた。遠藤はぬるめ煎茶。でも、いつのまにか玄米茶党になってたりする。Mさん、うまくやろうよ。Muなんてずっとこっち見ているわけじゃないし。
n0063_01_01b 顔と名前は、男は少ないので、すぐ覚えるが、女のお年寄りは見分けがつきにくい。シミの位置、白髪の具合……私は特徴を絵にして、覚えた。
せめて、車いすやシルバーカーには名前を書いてほしいというと、Mu係長は持ち物にこちらの都合で名前を書いたりできないという。排せつの場面でも、それぞれ、オムツ、リハパン、パット(それぞれ4サイズ)、布パンツ、トイレやおむつ交換の時間、メモだけが頼りだ。
その私のメモがなくなってしまった。
(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第64号(2015年11月1日発行)より