労働者の安全・衛生を守る教育は事業者の義務

制度・政策

実践的に考える職場と労働法

安全配慮義務・健康配慮義務

労働者の安全・衛生を守る教育は事業者の義務

 労働者を雇う以上、その瞬間から企業には安全配慮義務・健康配慮義務があります。労災防止にとどまらず、労働者が安心して健康的に働くことができる職場環境にする義務があるのです。
 労災や健康被害は、機械や設備などだけでなく、長時間労働や人間関係による心身の不調なども含まれます。
 労働契約法5条は「安全配慮義務」について、〈使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することが出来るよう、必要な配慮をするものとする〉と明記しています。
 労働契約法は10年ほど前に施行された法律で、大きくは集団的労使関係を個人的労使関係に解消していく意図があり、労働基準法による集団的規制を後景化する傾向があり、注意が必要です。しかし長年にわたる闘いで使用者に強制してきた安全配慮義務・健康配慮義務が明記された側面もあります。

生命・身体の安全

 設備の安全装置の不備や危険物の放置、古い設備で操業している場合などだけでなく、厚生労働省は「生命、身体などの安全」には、心(メンタル)の安全や健康も含まれると通達しています。
 裁判で主に問題になるのは、①「事業者が予見できた可能性があったかどうか(予見可能性)」、②「事業者が回避できた可能性があったかどうか(結果回避性)」の2つの視点です。
 つまり、使用者が予見し、回避できる可能性があれば、責任が問われるのです。これは労災などが起きた事後のことだけではなく、当然のことですが発生防止のために、この2つの視点で使用者の責任を追及し、業務や環境の改善をさせなければなりません。

雇い主に責任あり

 安全配慮義務をめぐる裁判は1975年の陸自八戸車両整備工場事件が転機となりました。バックする陸自車両に巻き込まれて自衛隊員が死亡した事件で、公務中の災害の責任は雇い主である国の責任との判決が出たのです。
 人を雇った以上、労働者を危険に遭わせないようにするために雇い主は労働者に対して安全で健康的な労働環境を提供する義務があるとしたのです。
 他の裁判例をみると、労働安全衛生法の健康管理義務を踏まえて、特定業務の軽減や免除措置を講ずるなどの労働者の健康への配慮をするための、かなり広範かつ高度な健康配慮義務を認めています。
 過労自殺に関する電通事件(1991年の事件、15年の新人女性社員の過労自殺事件とは別件)で最高裁は、企業の健康配慮義務につき次のように判示しています。少し長いですが引用します。
 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。
 労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。
 これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う

雇用主の配慮義務

 労働安全衛生法は、法定健康診断などの結果に基づき、労働者の健康を保持するための措置を定めています。医師による面接指導などでだけでなく、「当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備その他の適切な措置を講じなければならない」を定めています。
 これらについては裁判例も膨大にあり、労働者の健康状態に応じた適切な休養や時間短縮、配置転換や作業変更を講じる責任が問われています。またクレーンやチェンソー等の作業で腰痛などが悪化しないような措置が求められたケースもあります。
 また同様のケースで従前は建設現場監督をしていた労働者が健康を損い、医師が「デスクワーク程度の労働が適切」と診断したため会社が就労を拒否し、欠勤扱いとして無給となったケースでは、労務の提供が不十分であっても、(事務作業等)労務の提供の可能性があり、労働者もその意思を示した場合、会社は配慮しなければならない(復職を認めろ)と判断されました。

ちば合同労組ニュース 第103号 2019年02月1日発行より