『闘わなければ社会は壊れる』

本の紹介

書籍紹介 『闘わなければ社会は壊れる

〈対決と創造〉の労働・福祉運動論』(岩波書店)

 タイトルからして刺激的で示唆に富む提起が多い。
 「今日、社会問題は、政治家やエリートを中心とした調整や政策によって巧みに解決されるべきものであるかのように語られ、調整や政治に期待する風潮はカリスマ的指導者を待望する心理さえ…こうした風潮は市民・労働者を委縮させ要求や権利の主張を困難にしている」「社会運動の側も、自らを手続に従う無害で従順な主体であるとアピールする文化」(はじめに)
 要求や対立を避ける政策論議や社会運動は、現実への批判意識を後退させ、議論を「今よりも妥協的」な水準へと引き下げると本書は厳しく指摘する。
 2008年「派遣村」以後、反貧困運動は行政の下請化し、社会問題の解決にビジネスの手法を持ち込むソーシャルビジネスは、貧困の根本問題を解決せず貧困を生み出す構造を温存していると鋭く批判、労働運動と連結した運動の必要性を説く。
 福祉や賃金、労働運動や社会運動などについて7人の筆者が様々な立場から論じている。

福祉労働者の社会勢力化を

 第1章で藤田孝典は「権利要求の運動体が力を有すれば制度・政策の編成や改変が行われる。労働問題の是正に取り組み、福祉労働者を社会勢力化しなければ利用者の生活や権利、生命が脅かされる事態が続く」と訴える。
 第2章の渡辺寛人は、米国でNPOが商業化される実態などを紹介しながら、日本における対決回避型の反貧困運動が貧困問題の根本的解決を遠ざけていると指摘する。
 給付型奨学金は子供の貧困が生まれる原因にアプローチしないだけでなく、教育バウチャーの導入が教育の市場化をもたらし、公的教育への投資の後退をもたらすと警鐘を鳴らす。
 第3章の後藤道夫は、現代の「生きることができる条件」を考察。

社会的交渉力と職業的連帯

 第4章の今野晴貴は、「新しい労働運動が社会を守り、社会を変える」と題して、派遣村の新規性とその限界を検討し、やがてブラック企業へと問題の位相が発展したと唱える。新しい労働運動の特徴として、ヤマト運輸&アマゾン問題、あるいは引っ越し業や自販機など、当事者が立ち上がることで、その闘争が「事件」として社会的に注目され、企業内に組織基盤を持たない労働者が社会的交渉力を獲得していると語る。
 特定の保育園や介護施設の問題ではなく、保育士や介護士の労働問題として関心を集めている、として職種的な連帯の実存性を指摘。社会的交渉力や職業的連帯こそが組合の交渉力の源泉になっていることを強調する。
 今野は、労働運動家は労働事件を社会に表現するための能力が必要だと言う。
 5~7章では、木下武夫が賃金問題を検討。宮田惟史は、現代資本主義の行き詰まりを分析した上で、多くの人が経済成長の幻想に囚われ誰もその危機を正面から問わないと批判。最終章で佐々木隆治は、資本主義の終焉と社会変革を考察している。
 今後の労働運動の展開を考える上で、発想の幅を広げるような刺激を受けた。

合同労組ニュース 第114号 2020年01月1日発行より