40年ぶり労働基準法大改定の動き
経団連・厚労省が連動し研究会で急ピッチの議論
厚生労働省が「労働基準関係法制研究会」を設置し、計10人のメンバーで今年4月からスタートした。すでに6回開催された。
結論的に言って、労働基準法の歴史的な大転換、大改悪、あるいは解体という重大な事態が迫っている。新聞でも「40年に1度の大改正」(厚生労働省幹部の発言)と報じられている。
研究会での議題は多様、非常に抽象的な内容で分かりにくい議論がされているが、厚生労働省が言いたいのは「(労働基準法が)時代にそぐわなくなってきている」(厚労省幹部)であり、労働基準法制の全面的な見直しだ。
1987年の改定
提言は「働き方のニーズの多様化や企業を取り巻く環境変化などを踏まえ、時代に合った制度見直しの検討を不断に行うべき」として、労働法による規制は労働者の健康確保などに関わる最低限のルールだけとし、労働時間の設定などの細部は労使自治に委ねるなどの見直しが必要と主張している。
端的に言えば、労使自治の名のもとに労働法の適用除外を全面的に進めることを真正面から主張している。
提言は、①過半数労働組合がある企業を対象として労働時間規制のデロゲーション(法律の部分的撤廃または廃止の意味)の範囲の拡大、②過半数労働組合がない企業では「労使協創協議制(選択制)の創設」を提唱している。
「労働者」「事業場」
今回の研究会に先立ち、厚生労働省は23年3月に「新しい時代の働き方に関する研究会」を設置。同種の研究会としては異例のスピードの7か月で昨年10月に報告書を公表した。それを受ける形で労働基準関係法制研究会が立ち上げられた。
「新しい時代の働き方に関する研究会」メンバーの労働法学者の水町勇一郎教授は、労基法制定時の工場労働者モデルは通用しない、社会の変化に合わせてどう変えるかなどとうそぶく。「国家による上からの一律の規制に変わる新たな規制手法を考える」(水町教授)
具体的には、労基法の「労働者」「事業所」などの基本概念の見直しを提唱する。
そのロジックは抽象的かつ弁解的で分かりにくいが、例えば「労働者」概念について、フリーランスや副業・兼業、テレワークなどの多様な働き方を射程に入れることで曖昧化し、使用者と労働者の集団的労使関係ではなく、「1対1の労働者と会社のコミュニケーションや対話」という次元の話にしている。
「事業場」概念に関しても、労働基準法や就業規則の「事業所単位」原則をはずす議論が展開されている。後述の経団連による「労使自治に委ねる」論と符丁を合わせて議論がなされている。さらに「過半数代表者制度」見直しも議題の俎上に上る。
そもそも労働基準法は労働者を保護するための最低限度の規制だ。同じ場所で働く労働者を一律に保護しなければ労働基準法の名に値しない。
水町教授は、安倍政権の「働き方改革」の旗振り役を務めた労働法学者だが、この過程で反動化をさらに強め、労基法の全面的解体の先頭に立っている。
経団連の「提言」
1月16日に日本経団連が「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表した。
「現行の労働基準法は、工場労働のような、一か所に集まり始・終業時刻が固定的かつ労働時間と成果が比例する労働者を前提とした、画一的な規制であり、職場実態をよく知る労使が多様な働き方を実現していくことが難しくなっている」
「労働組合の組織率が低下していることもあり、自社にとっての望ましい職場環境のあり方を個別企業の労使が話し合い決定するという、日本企業の強みともいえる労使自治を発揮できる場面が縮小している」
――これは提言の冒頭の部分だが、この辺りに労基法解体の問題意識がある。
ストレートに言えば「労使自治」の名目で労働基準を会社の意のままにしたいのだ。デロゲーションは「適用除外」「例外」を意味する。〝労使の合意があれば法律による労働時間の一律規制を適用しなくても良い〟と言いたいのだ。
労使協定や就業規則の「事業所単位」を外して本社で一括で設定できるようにする。
これは単に法制度レベルの問題ではない。労働組合を完全に支配する、労働組合を解体して社友会に置き換えることを意味する。階級闘争バージョンの主張である。
ちば合同労組ニュース 第166号 2024年05月1日発行より