ゲッペルスと私

労働映画

映画紹介 「ゲッペルスと私」

 「何も知らなかった。私に罪はない」。主人公のボムゼルはナチスの宣伝大臣ゲッペルスの秘書だった。撮影時103歳とは思えない記憶力と言葉で語り続ける。
 彼女は1933年にナチスが政権を握った時に党員となり、42年には宣伝省に入省、同年代の労働者より格段に高い収入を得る。ボムゼルは、与えられた仕事を従順にこなすだけでナチスが何をやっているか分からなかった。政府に反逆したユダヤ人を逮捕したり、強制収容所も拘置所程度の認識しかない。ホロコーストを知ったのは敗戦後だった。
 ゲッペルスの謦咳に接することはなかったが、彼は小柄で品がよく温和な紳士。大声で演説を始めると群衆は熱狂した。43年のスターリングラード攻防戦を境に物資の供給が減り、みんなの気持ちも変わり始めていたが「全体で何が起きているのか知ることはできなかった」と語る。

 ボムゼルは「今の若い子は、あの時代なら抵抗するだろうというが、誰も流れに逆らうことはできない」と断言し、「私に罪があるとは思わない。ただしドイツ国民全員に罪があるとすれば別よ」とうそぶく。
 ゲッペルス秘書に抜擢された才女が、第2次大戦や抵抗闘争、ホロコーストを「知らなかった」というのは不自然だ。検閲前の新聞を読むこともできた。だが画面からは「欺瞞」や「自己弁護」とは言い切れないものを感じる。戦争とは彼女のように「何も知らない」人たちの手によって担われていくのか。
 70年後の日本ではどうだろうか。問われる気がする。戦後70年を経てナチス中枢にいた人間が語る貴重なインタビュー。当時のニュース記録映画も興味深い。(W)

ちば合同労組ニュース 第97号 2018年08月1日発行より