ミッドナイト・バス

労働映画

映画紹介『ミッドナイト・バス』

 長距離夜行バスの中年運転手が主人公の映画。関越トンネルをバスが抜けるシーンから始まる新潟ご当地映画だ。
 原田泰造が演ずる高宮は16年前に妻の美雪と離婚した後、東京での仕事を辞め、いまは故郷の新潟で暮らしながら新潟と東京間の運行業務を担当している。2人の子も今は別々に暮らす。高宮には東京で定食屋を営む恋人がいる。定食屋に通うのが心の拠り所だ。

 ある日、高宮が乗務するバスに元妻の美雪が偶然乗ってくる。思いがけない突然の再会。美雪は東京で新しい家庭を持ち、認知症の父の面倒をみるために東京から新潟まで通っているという。同じ頃、息子が東京での仕事を辞めて新潟に帰ってくる。娘はアイドルになる夢と結婚の間で揺れる。そして高宮は美雪が再婚した夫の浮気と身体の不調に苦しんでいることを知る。高宮と美雪の離婚で傷を負い一度はバラバラになった家族が故郷の新潟に集まってくる……

 長距離バスを舞台にした映画は日本では少ないのではないか。東京のシーンと新潟のシーンの切り替えを原田が運転するバスがつなぐ。深夜のバスが舞台なので映像のトーンを抑え、別れた夫婦、父と子、母と娘、恋人、元妻とかつての義父…様々な葛藤や思いが16年の歳月を踏まえた抑制的かつ丁寧な描き方で好感。

 直木賞候補となった伊吹有喜の同名小説を映画化。違う俳優であればまた違う映画になったと思う。原田泰造も悪くないが高倉健が演じたらどうだったかとの意見もあった。それには同感だ。2時間37分はやや冗長ですが、バス好きや新潟に所縁がある人はぜひどうぞ。

 ちば合同労組ニュース 第122号 2020年09月1日発行より