実践的に考える職場と労働法
求人詐欺に一定の規制 雇用安定法の改定
固定残業制や裁量労働制も募集・求人時の明示項目に
昨年3月の職業安定法の改定により、募集・求人時の労働条件の明示項目のルールが今年1月から変わりました。(上記 図・厚生労働省PDF)
①労働条件の明示が必要なタイミング、②固定残業代や裁量労働制の明示、③求人票と労働条件が異なる場合には変更内容の明示などです。
改定前と比較すれば「改善」と言えるとは思いますが、実際には抜け道もしっかりあるので注意が必要です。
企業が労働者を募集するにあたって労働条件を明示する義務があります。労働基準法にも労働条件の明示義務は規定されています。しかし、これは労働契約を締結する時点での規定です。募集時の条件提示の規制は緩く、簡単にいうと「会社としては労働者の経験や能力、熱意に応じてこれくらいは提示できます」という感じでした。
求人広告をみて好条件だと思っていざ面接を受けるとまったく違う労働条件が提示されるケースは多く、求人情報を頼りに求職活動をせざるを得ない人には本当に苦しみの源泉でした。
今回の法改定で、原則として、初回の面接など求人者と求職者が最初に接触する時点までに、すべての労働条件を明示すべきとなりました。さらに試用期間・固定残業制・裁量労働制などについても明記が必要となりました。
固定残業制は、賃金の一部としてあらかじめ一定の残業代を含む制度です。「基本給20万円(5万円の定額残業代を含む)」「支払総額20万円(基本給15万円、固定残業代5万円)」などのように賃金額が高く表示されます。固定残業制を悪用する会社はこの丸括弧の部分の提示をあいまいにします。労働者には20万円の内訳(うちわけ)が不明になります。
実際に働き始めると「(固定残業代があるから)何時間働いても残業代はない」「労働時間も記録していない」となるわけです。労働者も「そういうものかな」と誤解したり、あきらめてしまいます。
固定残業制を厳格に運用するならば定額部分を超える残業代の支払いが当然必要であり、残業代の計算も煩雑(はんざつ)です。しかし固定残業制を悪用すれば、残業代の支払いを免れるだけでなく、労働時間の把握も残業代の計算も不必要になるのです。
法改正に伴って作成された「指針」により、固定残業制を適用する場合には、①固定残業代を除く基本給、②時間と金額を明記した固定残業代の内訳、③固定残業代に含めた時間外労働を超えた時間外労働については、割増賃金(残業代)を追加で支給する旨の記載が必要になりました。
派遣雇用も明示に
募集者の氏名・名称についても、募集・求人時に明示することが求められることになりました。コンビニのアルバイト募集は、フランチャイズ本部の募集ではなくオーナー(加盟店経営者)が大半です。それが判別できるようになります。 派遣労働者として雇用する場合にも明示が必要になりました。入社したら派遣労働者で実際の勤務場所は派遣先というケースも多かったのです。
求人情報誌の問題
多くの人は、ハローワークなどの「職業紹介」の仕組みと、求人情報誌(やウェブサイト)を利用した求職活動を区別していないと思います。
「職業紹介」は、「求人者」(雇用主)がハローワークに対して労働条件を明示することが必要です。さらにハローワークは、求職者(労働者)に対して労働条件を明示する義務があります。
それとは対照的に、求人情報誌に掲載されているのは求人情報(求人広告)に過ぎません。雇用安定法が規定する「職業紹介」の仕組みではないのです。単なる情報提供にすぎず、求人情報誌は求職者に対して労働条件明示の義務は負いません。雇用主も、求人情報誌に労働条件明示の義務を負いません。
微妙な仕組みで分かりにくいですが、求人情報誌での「労働者の募集」の場合、労働条件の明示は、雇用主(募集主)→求職者(労働者)の関係性の中において必要となるのです。したがって求人情報誌を見た労働者が問い合わせるなどの当事者間の連絡・交渉の中で明示すれば、一応、明示したことになるのです。
そういう事情もあり、今回の改正では、労働条件については、「原則として、求職者等と最初に接触する時点までに」明示するとなったのです。少なくとも企業説明会や初回の面接時には明示することになったわけです。不利な労働条件の「後出し」が少し規制されることになりました。
いずれにせよ変更明示は重要です。求人情報誌や情報サイトを印刷し、注意して確認することは大切です。
ちば合同労組ニュース 第92号 2018年03月1日発行より