実践的に考える職場と労働法 労働協約の意義と機能

連載・職場と労働法

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労働協約の意義と機能

 

組合委員長と社長のサインで有効な協約に

 

 労働協約は、労働組合法の規定では「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する規定であって、書面に作成され、両当事者が署名または記名押印したもの」とされています。様式はけっこう重要です。ハンコがなくても組合委員長と社長のサインがあれば労働協約として有効となります。
 様式が重視されるのは、労使間の団体交渉については様々な段階や形態をとって行われ、その結果の合意が労働協約として特別の効力が与えられるので、労働協約の成立や内容について明確化するために厳格な様式が規定されているわけです。逆に言えば様式を満たせば、議事録や覚書でも協約の効力を持ちます。
 労働協約は、一般的には団体交渉の結果として締結されますが、労働組合法はその手続きについて特に限定していません。したがって、労働委員会の斡旋や和解などの手続きで締結される協定も、労働組合法上の定義を満たせば労働協約となります。
 労働協約には、労働条件や労使関係のルールを体系的・包括的に設定したものと、賃上げ・一時金・時短・退職金・便宜供与・交渉のルールや手続きなどの特定事項に関する個別的協定として締結されるものがあります。

 

労働協約の機能

 

 労働協約の機能としては、まず第一に、労働条件その他の労働者の待遇の基準を設定して、これを一定期間保障する機能(労働条件規整機能)があります。第二に、労働組合と使用者との間の諸関係に関するルールを設定する機能(労資関係統治機能)があります。第三に、使用者の経営上の権限に対する労働組合の関与(労使協議制、人事への事前協議制など)を制度化する機能(経営規整的機能)があります。
 職業別や産業別の労働協約の場合には、労働市場における労働力価格の水準を設定することにより、使用者による賃金引き下げ競争を排除する機能(カルテル的機能)があります。

 

労働協約の効果

 

 海外では労働協約について、英国のように単に紳士協定として取り扱われ、労働協約の運営は労使自治に委ね法律は一切関与しない国もあります。あるいは、労働協約を労使の当事者間の約束(契約)として把握し、契約としての限度で法的効果を認めるという国もあります。
 他方、協約の適用を受ける労使間の個々の労働契約を直接規律する効力を与える国もあります。特にドイツでは、当初は、労働協約は当事者同士の契約と考えられましたが、第一次世界大戦後に個々の労働契約を直接規律する効力を法的に認められ、やがて一定要件が備われば行政機関が協約を当該労使団体の構成員以外にも拘束力があるものとして宣言できるようになりました。日本の労働協約の法律や理論は、ドイツの影響を受けています。
 ドイツの労働協約は、一定地域の職業・産業の労働条件の基準を企業横断的に設定する職業別・産業別労働組合と使用者団体の間で結ばれるものが一般的です。
 しかし日本では、企業別労働組合が多数で労働協約にドイツのような実態がないため、労働協約について様々な論争もありました。学説では、労働協約は、もともとは当事者間の契約だが、その重要な機能に鑑みて、労働組合法によって個別的労働関係を直接規律する特別の効力(規範的効力・一般的拘束力)を与えられているとされています。

 

労働協約の要件

 

◎組合側の当事者

 

 労働協約の当事者となり得るのは、労働組合と使用者又はその団体です。
 使用者の利益代表者の加入や経費援助を受ける労働組合は労働組合法上の労働組合ではないため労働協約の締結資格はありません。上部団体については団体交渉の当事者となった場合には労働協約を締結することができます。
 支部や分会が労働協約を締結する場合には、労働組合としての要件を整え、当該組合の内部において当該事項について団体交渉権を与えられていることが必要です。労働組合としての要件を持たない職場組織や職場委員が締結した協約は、労働協約としての効力を有するには労働組合を当事者として締結されたものとする必要があります。

 

◎使用者側の当事者

 

 使用者又はその団体については、使用者とは、個人企業であればその企業主個人、法人ないし会社企業であればその法人ないし会社です。
 労働協約の当事者となり得る使用者団体は、構成員である使用者のために統一的な団体交渉を行い、労働協約を締結し得ることが規約(定款)または慣行上当然に予定され、その締結のための意思統一と統制をなし得る体制にある団体であることが必要となります。

 ちば合同労組ニュース 第129号 2021年4月1日発行より