にあんちゃん

労働映画

映画紹介『にあんちゃん』

 監督・今村昌平、主演・長門裕之の1959年公開の映画。53年の佐賀県の炭鉱地帯が舞台。3歳で母を亡くし、9歳の時にストライキのさなかに父を失った安本末子の視点から、在日朝鮮人の4兄弟姉妹が懸命に生きる姿を描く。
 父の死後、朝鮮人ゆえに正社員となれず炭鉱の臨時雇いとなる長兄。わずかな稼ぎで毎日の糧にも事欠く極貧の生活。その長兄も会社の合理化策による首切りで失業。4人は炭住を追い出され一家離散に。長兄は佐賀に仕事を探しに、長女(松尾嘉代)は奉公に。末子と次兄(にあんちゃん)は父の仕事仲間であった辺見家で居候の身に……

 

 末子の日記を、過労から病床に臥せった長兄が読んで感動。末子の反対を押し切って日記帳を出版社に送ったところ書籍化(『にあんちゃん・十才の少女の日記」)され、すぐ映画化された。『我が谷は緑なりき』を彷彿とさせる映画だ。
 炭鉱の坑口、坑道から引き揚げられてくる炭車、ぼた山、炭鉱住宅街、共同風呂や保健所、文化会館など、歴史的に貴重な炭鉱地帯の風景と日常生活が映像化されている。そして炭住ぐるみ・家族ぐるみで合理化(解雇)反対の闘いの後、指名解雇により炭鉱を離れる人々と家族が描き出される。
 両親の死や差別と貧困の中で兄弟姉妹が懸命に生きる姿を重厚なリアリズムで描き、感動的な作品だ。貧しくとも昔は良かった的な文脈で評価されることへの批判もある。この映画で文部大臣賞を受賞した今村監督は健全な映画を撮ったことを反省したという。だが在日朝鮮人に対する差別構造や葛藤などが織り込まれ、けっこう複雑な映画だ。

 

 ちば合同労組ニュース 第128号 2021年3月1日発行より