タクシー運転手~約束は海を越えて~

労働映画

映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』

 時々息をするのを忘れるような映画だった。自分が生きてきた同時代に隣国でこんな「事件」があったのだ。38年前の1980年5月、韓国光州市を中心に起きた民衆蜂起と軍による大量虐殺(光州事件)を描く映画。
 独裁者として君臨した朴正煕(パクチョンヒ)大統領が暗殺され、「ソウルの春」と呼ばれた民主化ムードが続く中、全斗煥(チョンドファン)がクーデターで権力を掌握。全国各地で学生らの抗議デモが始まる。光州でも大規模なデモが起きると、非常戒厳令が発令され、民衆と戒厳軍の激しい衝突となったのだ。
 妻と死別し、家賃を滞納し、一人娘の食事にも事欠く男やもめのタクシー運転手がドイツ人記者をソウルから光州まで送っていくことに。だが光州市は軍が封鎖し、電話線も遮断されて陸の孤島となっていた。そこでは鎮圧部隊として投入された空挺団が数百人の光州市民を殺害していたのだ。しかし厳しい報道管制が敷かれ、世界中の誰も知らないまま事態は進んでいた。噂で聞こえるのは「反社会勢力やスパイに扇動された暴動」という政府の宣伝だけ。
 高額の報酬を得るため光州への潜入を試みる主人公。そこで出会った学生や同業のタクシー運転手たちの命がけの抵抗に心を揺さぶられる。光州市民、主人公と記者の運命は…
 歴史的事件の映画化だけでも大きな意義だと思うが、この歴史を舞台に狂言回しの主人公の変わっていく様は映画として良くできている。名優ソンガンホの演技はさすが。ほかの映画もだが、最初は冴えないクズ男にしか見えないのが次第にヒーロー、イケメンに見えてくるのだ。
 光州蜂起は87年の民主化闘争、労働者大闘争、後の民主労総の設立につながる。

ちば合同労組ニュース 第102号 2019年01月1日発行より