映画紹介『マッチ工場の少女』

労働映画
映画紹介『マッチ工場の少女』
 今月もフィンランドのアキ・カウリスマキ監督。本作は労働3部作の3作目。
 イリスは母と継父と暮らす独身女性。両親は働かず収入はイリスが働くマッチ工場のわずかな収入だけ。しかも食事の世話も彼女が。絵に描いたように味気なく不幸な毎日。
 給料日の帰り道、彼女は陳列窓に飾られたドレスを衝動買いする。両親になじられ返品を命じられるが、そのままドレスを着てディスコに行き、一流企業に勤めるアールネという男性に声をかけられ一夜を共にする。アールネに夢中になったイリスは両親にも会わせるが、「あの夜のことは遊びだった」と冷酷に告げられる。
 やがて妊娠を知ったイリスは手紙を書く。しかし「始末しろ」と書かれた手紙と小切手が返ってくる。裏切られ傷心のまま街を歩き交通事故で流産。さらに継父からは家を追い出される。兄の家にころがりこみ悲嘆に暮れるイリスは薬局で殺鼠剤を購入する。
 自殺するのかと思いきや激烈な復讐劇が始まる。あまりに短絡的な展開は意外に深いのかも。カウリスマキ監督の映画は独特の緊迫感とスピードがある。無言のシーンが多く、余韻を残す演出が特徴的だ。イリス役のカティ・オウティネンも台詞が極端に少なく無表情だからこそ表現される心情がまた良い。
 隣国スウェーデンはダイナマイトを発明し財を成したノーベルの遺言を基に創設されたノーベル賞の国として有名だが、かつて北欧はマッチ産業も盛んだった。マッチ棒の製造工程がしっかり映されており、これも興味深い。