映画紹介『家族を想うとき』

労働映画

映画紹介『家族を想うとき』

 前から見たかった映画だが数多いケン・ローチ作品の中で観ていて一番ツライ気持ちに。名匠ケン・ローチが引退表明を撤回して撮った映画がこれほどツライ内容にならざるを得ない。これが新自由主義とグローバリズム経済の世界の現実なのか。もちろん希望を紡ぐ場面も随所にあるのですが…。

 英国の東北部の工業都市ニューカッスルに住むある家族を描く。主人公リッキーは、マイホーム購入の夢を叶えるためにフランチャイズの宅配ドライバーとなる。「勝つのも負けるのもすべて自分次第。できるか?」と言う管理者に「長い間、こんなチャンスを待っていた」と答えるリッキー。

 妻アビーは訪問介護の仕事をしている。夫の配送用バンを購入するためにアビーは車を売却し、遠く離れた高齢者の家へバスで通うことに。長い移動時間のためますます家にいる時間がなくなる。16歳の息子と12歳の娘との会話も減り、移動中に留守番電話で一方的に語りかけるばかり。

 家族を幸せにするためのはずの仕事が家族と時間を奪っていく。病気になっても社会保険はない。ドライバーの代わりを自分で探さなければ休みも取れない。息子の万引きで仕事を放り出して警察に迎えにいった際のペナルティーなどで次第に借金が膨れ上がり、一家は悲惨な状況に陥っていく。

 英国では十数年前から急増した「ゼロ時間契約」。決まった労働時間がなく、使用者の求めに応じて時間分の賃金払いを受ける働き方。これは現に日本で起きている。アマゾンの配送ドライバーが事故を起こし車が大破、代車で血まみれのまま配達した記事を読んだことを思い出した。

 ちば合同労組ニュース 第151号 2023年02月1日発行より