映画紹介『電気工事士 Electrician』

労働映画

映画紹介『電気工事士 Electrician』

 2020年の英映画。素人の俳優を使い低予算で5年かけて撮影された。ロンドンの倉庫会社や建設現場で働く電気工事士マークの孤独な日常を描く。
 毎朝起きて出勤し、黙々と仕事をこなし、粗末な食事をとって帰宅して寝る姿が淡々と描かれる。彼は徹底的に無口、同僚に飲みに誘われても交わらない。対照的に同僚たちの下らない会話がやたら多い。本当に下衆な内容で、マークの悪口から始まり、無銭飲食や隣人の車を盗んだ話など、それが妙に映画に独特のテンポを与える。みんな、まともに働かず、マークだけが淡々と静かに仕事をしている。
 最近、マークは咳がひどい。咳き込んでしまい仕事を中断する場面も。さすがに病院で精密検査を受ける。明言されないがどうもアスベスト疾患のようだ。電気工事の仕事は天井や壁に穴を開ける作業も多い。職業病だ。
 次第に、2年前に別れた妻が連れて行った息子のことが思い出されるように。マークは息子への思いを募らせ、精神的に追い込まれていく。これもはっきりとはわからないが、かつて義兄と一緒に犯罪に手を染め罪を被って服役した過去があり、それが離婚の原因なのだろう。なかば脅迫気味に元妻の連絡先を知る義兄に息子に合わせて欲しいと何度も頼む。
 病気をきっかけに離れ離れになった息子に会いにいく話かと思いきや、ラストはあまりに衝撃的。まぁ英映画っぽいかな。
 徹底的な無表情や無口さ、主人公の視点に密着したカメラワーク、抑え気味の色調などが醸す緊張感。巧くないが素人とは思えない演技。ラスト2秒は思わず「えっ?」と声を出してしまった。

 ちば合同労組ニュース 第158号 2023年09月1日発行より