ハリウッドで無期限スト続く

組合活動

ハリウッドで無期限スト続く

AI導入に俳優・脚本家の強烈な危機感

 米国の「映画俳優組合/アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG―AFTRA)」が7月、映画会社やテレビ局、ネットフリックスやディズニーなどが所属する全米映画テレビ制作者協会に対して、賃上げと労働環境の改善、AIの規制を求めてストライキに入った。
 43年ぶりとなるストには約16万人の俳優が参加。すでに脚本家労働組合(WGA)が5月からストを続けており、1960年以来のダブル・ストライキとなった。
 近年、俳優も脚本家も収入が減り、インフレの影響で契約金も目減りしている。仕事はより短期間で不安定になっている。「われわれに起きていることは、あらゆる労働市場で起きていることだ」
 特に動画配信サービスの拡大が俳優や脚本家たちに大きな影響を与えている。
 以前は、映画公開後のテレビ放映時や映像ソフト化の際に「二次使用料」が支払われてきた。ところが動画配信サービスが拡大し、DVDなど映像ソフトの売り上げが大きく減少。他方、動画配信サービスは1度の支払いで何年も配信を行うが再生回数を公表しておらず、二次使用料は極めて小額だ。
 さらに大きな問題となっているのがAI(人工知能)だ。近い将来、AIが書いた脚本を人間が手直しする時代が来るとも言われている。組合はAIによる脚本の学習の規制を求めている。
 俳優組合は、エキストラ俳優をAIがスキャンして許可なく無料で永遠に使用を可能にする仕組みを見直すよう求めている。

強い組合の統制力

 労働組合の統制力はかなり強い。ストライキ実施中、組合員はオンカメラの仕事(演技や歌、ダンスなど)、オフカメラの仕事(ナレーションや声優)、プロモーション活動に従事しない。つまり映画やテレビ、ラジオ制作などに関わる仕事はできない。
 さらに、俳優らが自分たちの作品について話すことも禁止している。映画の宣伝はNGだが、インタビューでストに参加している理由について語ることはできるなどのルールを徹底している。
 トム・クルーズも俳優組合に所属しており、映画宣伝で7月に来日予定だったが、組合の指令で宣伝活動に参加できなくった(報道によれば、彼は交渉にも参加し、組合の要求を主張する一方、妥協点として宣伝活動には参加できるように提案したらしい)。
 組合員のスト破りには厳しい処分が課される。非組合員がスト対象企業で仕事をした場合、将来的に組合に加入できなくなる。
 俳優や脚本家の危機感は強く、「ここで退けば労働者の未来はない」とスト継続の決意を固め、ストは年内は続くと報じられている。ストで発生する損害は5000億円を超えるとも言われている。
 他方、協会側幹部も「組合員が家を失い、家族が飢えるまで続ける」と発言しているそうだ。
 63年前の前回のダブルスト時には、労働組合側は、健康保険制度や年金、二次使用料の支払いなどの権利をかちとった。今回のストは実に重大な局面にある。

 ちば合同労組ニュース 第158号 2023年09月1日発行より