替え時間は労働時間/イケア、着替え時間の賃金払わず 9月から支給

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替え時間は労働時間

イケア、着替え時間の賃金払わず 9月から支給

 家具小売り大手のイケア・ジャパン(千葉県船橋市)が06年の開業以来、制服の着替え時間について労働者に賃金を支払っていなかったことについて、9月1日から着替え時間分の賃金を支払うことになった。毎日新聞が報じた。
 00年の最高裁判決(三菱重工業長崎造船所事件)は、労働時間について「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義。厚生労働省の通達(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)は、労働時間は「使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」と明記している。
 労働時間に該当するかどうかは、労働契約や就業規則にどう書いてあるかではなく、おのずと客観的に定まるとの考え方だ。会社が制服の着用を義務付けている場合、原則として着替え時間は労働時間となる。
 「働くときは、シャツ・パンツ・靴を会社指定のものに着替えてからタイムカードを打刻し、終了後も打刻してから着替えるように言われていた」(女性労働者の証言)。
 イケアは会社指定の制服に着替えて勤務することを定めていたが、従業員に対して着替え後にタイムカードを打刻し、終業時も打刻してから着替えるよう求めていた。今後は、着替えの時間について一律5分とし1日10分を労働時間に含めるとした。
 多くの職場で着替え時間は労働時間としてカウントされていないのが実情だ。それが当たり前と思っている労働者も少なくない。しかし、着替え時間は労働時間であり、賃金は1分単位で支給する必要があることが再確認された。「自分の職場はどうだろうか」と話題になっている。

労働時間の定義

 三菱重工業長崎造船所事件についておさらいしたい。
 同社では、①更衣室での作業服や保護具などの装着、準備体操の場所までの移動、②資材などの受け出し及び月数回の散水、③作業場から更衣室までの移動、作業服及び保護具の脱離、④その他一連の行為――を所定労働時間外に行うように定めていました。
 これに対して労働組合は、こうした行為を行う時間は労働基準法上の労働時間にあたるとして時間外労働として割増賃金を請求したのです。
 労働基準法は、休憩時間を除き1週間ついて40時間、1日8時間を超える労働をさせてはならないと定め(32条)、違反した使用者に対して罰則を適用し、上限を超えて労働させた場合は割増賃金の支払いが必要となります(37条第1項)。裁判では、労働基準法上の労働時間の「定義」が問題となりました。
 最高裁判決は、労働基準法上の労働時間は、労働契約や就業規則でどう規定されているのかではなく、客観的に決定されると判じました(客観説)。そして、その行為が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで判断されるとしたのです。
 指揮命令の有無だけではなく、業務上必要かどうかも判断基準に加えるべきであるとの説が近年は有力です。
 労働者の行為は、使用者の明示の指示や具体的な命令がない場合でも、指揮命令下に置かれていると評価されるものについては労働時間となるのです。
 例えば、始業時刻前に出勤し、あるいは就業時間後も大多数が残業を行うことが常態となっていた場合は、具体的な指示がなくとも使用者の黙示の指示による残業だと認められ、時間外割増手当の支払いが命じられたケースもあります(京都銀行事件)。
 本来業務の準備作業や後片付けは、使用者に義務付けられた場合はもちろん、必要不可欠な場合には指揮命令下に置かれたものと評価され、労働時間に該当します。

仮眠も労働時間

 また、労働者が具体的な作業に従事していなくても、業務が発生した場合に備えて、待機している時間は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価されます。
 仮眠時間も労働から完全に離れることが保障されていない限り、休憩時間ではなく、労働基準法上の労働時間にあたります。24時間勤務に従事するビル警備員の仮眠時間について、仮眠室で待機し電話や警報などに直ちに対応することが義務付けられていたのは労働時間に該当すると判断された裁判もあります。
 マンション管理人が、所定労働時間外も住民の要求に応じて宅配物の受け渡しなどを行うように指示されたケースでは、住み込みのマンション管理人については労働時間に該当すると判断されたケースもあります。
 ちなみに三菱重工業長崎造船所事件は有名な判例が3つある。佐世保港への原子力船入港に抗議したストライキについての裁判もあります。興味がある人はインターネットで調べてみて下さい。

 ちば合同労組ニュース 第159号 2023年10月1日発行より