給食の民営化・非正規化の破綻

制度・政策

給食の民営化・非正規化の破綻

全国150施設で給食・食堂が停止に

 全国各地で学校給食や寮の食事が提供されない事態が9月冒頭に問題となった。8月末に突然、担当者や調理員が打ち合わせに来ないなどの緊急事態が生じた。委託先だった広島市の会社「ホーユー」は9月25日、広島地裁で破産手続き開始決定を受けた。
 同社は1994年に設立され、北海道から沖縄まで22都道府県の学校や官公庁など150施設で給食を提供し、食堂を運営してきた。従業員数は約700人。山浦社長は「食料品や光熱費などが高騰する中、学校などに値上げを相談したが思うように進められなかった」と説明している。
 過去に同社は最低賃金を大きく下回る賃金(3か月で約3万円)でベトナム人女性を実習生として働かせ、女性が待遇改善を求めると解雇し、「行方不明になった」と虚偽の処理まで行っていた。
 確かに昨今の原材料・電気料金・人件費の高騰はある。新型コロナの影響で給食・食堂が中止となり、オンライン授業の導入で売り上げが落ちた。人手不足も深刻だ。
 他方、自治体側はとにかく安価な給食業者を使いたいと考えている。このため経営基盤の脆弱な企業が人件費や原材料費を落として入札する。
 広島県立高校の入札では、他事業者が1億7640万円、5899万円で入札したが、同社は1800万円で入札・落札した。給食ビジネスモデルが崩壊していることは間違いない。

給食民営化の流れ

 1954年に学校給食法が制定され、学校給食は「教育の一環」として位置づけられ自治体などが運営の責任を果たすことが定められてきた。
 しかし国鉄分割・民営化を進めた第2臨調が「民間活力の導入」を強調し、旧文部省が1985年に「学校給食業務の運営の合理化」を通達、一転して民間委託や共同調理場の推進、パート職員の活用などが始まった。
 90年代半ばにO157食中毒事件が多発したがブレーキはかからず、地方自治体の多くは財政悪化を理由に民間委託や市町村合併による合理化を推進し、給食調理員の非正規化を拡大した。
 学校給食調理業務は経験や熟練が必要だ。給食の対象は個性を持った子どもで、生活環境やアレルギーなど体調も千差万別。独自の工夫や判断も必要だ。
 体調や衛生管理では繊細な注意が求められる。爪ブラシを使った手洗い、調理室の消毒や材料のチェック、下処理や洗浄、刃こぼれのチェック、肉や魚を調理した際にはエプロンの取り替え…
 高温多湿な環境の中で細心の注意を払っての仕事。子どもの成長に合わせたバランスの良い適切な量。毎日、時間通りに温かい給食を提供。もちろん食中毒などの事故は許されない。こういう仕事を毎日やっているのだ。
 マニュアル化された調理業務ではファストフードのような業務にならざるを得ない。
 調理員の証言では今回の事態は起きるべくして起きた。本社と現場の距離感は遠く、研修もほとんどなかった。
 民間委託は採算が最優先となり、学校給食の本質と矛盾する。コストや効率が至上命題となれば調理技術や衛生知識が不足した調理員を配置する傾向が生じる。

 ちば合同労組ニュース 第159号 2023年10月1日発行より