実践的に考える職場と労働法/コロナ問題 職場での諸要求について

連載・職場と労働法

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コロナ問題 職場での諸要求について

厚生労働省「感染者に休業手当を払う必要なし」

 コロナウイルスの影響が各職場に広がっています。
 感染が判明した千葉在住の20代の労働者は40度の熱が1週間以上続いても中国人との接触がないとの理由で検査を拒まれ、また「簡単には仕事を休めない」と無理して通勤していたと報じています。
 会社が出勤停止の措置を取った場合の賃金補償は重要な問題です。自分と同僚の健康と生命を守り感染拡大を防ぐためにも安心して休めるようにしなければなりません。
 中国からのサプライチェーンの影響で工場は操業縮小、観光客や外出者の減少で飲食店は閑古鳥という状況で、休業だけでなく雇い止めや解雇も始まっています。
 いずれも労働組合にとって重大な課題です。以下、職場の取り組みの参考になる制度や法律を紹介します。

安全配慮義務

 まず使用者には、労働者の健康や安全に配慮する法的な義務があります。会社が適切な対応を取らずに職場で感染が拡大したり、労働者の健康が害されれば、会社の責任が問われます。
 昨年、労働安全衛生法が改定され、産業医による労働者の健康管理などの責任が強化されています。会社は産業医が適切な判断で助言ができるように必要な情報を提供することが義務付けられました。
 会社や産業医に対して、最新の知見に基づく労働者の立場に立った適切な具体策を検討させるよう労働組合として申し入れることは重要です。
 37・5度以上の熱が続き、だるさや息苦しさの症状があってコロナウイルスに感染している可能性があるのに無理に出勤を求められた場合は、労働契約法5条「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、(会社は)必要な配慮をする」義務を負っている(安全配慮義務)」を指摘しましょう。

休業手当

 逆に症状が出ていないのに自宅待機を命じられるケースもあります。就労が可能で就労の意思があるのに無理やり出勤させてもらえない場合は、会社都合であり、会社には賃金全額を支払う義務があります。労働基準法も賃金の6割を支払う義務を規定しています(休業手当)。
 有症状者や家族が感染した労働者は、会社の判断によって労働者を休業させるように要求すべきです。賃金は全額保証でまったく問題ありませんが最低でも6割の休業手当の支払いは必須です。 
 ところが厚生労働省はウェブサイトのQ&Aで都道府県知事による就業制限で休業した感染者については「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないから休業手当を支払う必要はないと書いています。つまり厚労省は感染者に休業手当を払う必要はないと宣言したわけです。
 およそ厚生労働省が感染拡大阻止を真剣に考えているとは思えません。ちなみに韓国では政府による生活保障、マレーシアでは賃金全額支給、シンガポールも支援金を支給しているようです。
 結局、厚生労働省の指導では休業手当については会社の予防措置などの指示ならば休業手当を支払う必要があり、感染者あるいは労働者が自主的に休めば支払う必要がないとなっている。

雇用調整助成金

 サプライチェーン途絶による操業停止や観光客減少による業績悪化の企業などについては1月24日から雇用調整助成金の特例が設けられた。大企業は労使協定に基づく休業手当の2分の1、中小企業は3分の2について雇用保険から助成金が支給される。
 労働者が自主的に休んだ場合で、休業手当の支給がなされない場合は、年次有給休暇の取得も検討しうる。これまでほとんど取得できなった非正規労働者が権利行使するきっかけにもできる。もっとも会社側から強制的に年休を取得させるのはNGだ。

労災保険

 医療従事者が患者から感染した場合は労災保険の給付は可能だ。09年に新型インフルエンザが流行したときは「原則として保険給付」との通達が出ている。しかし認定数はわずかと思われる。厚労省のウェブサイトには「一般にウイルス等の感染で起きた疾患は、感染機会が明確に特定され、業務・通勤に起因して発症した場合は保険給付の対象」と書いてある。
 子どもや家族が感染した場合、世話も必要だし、自身も濃厚接触者となる。休校も広がっている。切実な問題だ。育児介護休業法に「子の看護休暇」があり、小学校未就学児のケガや病気で看護が必要な時に1年間に5日、こどもが2人以上の場合は10日休むことができます。
 法律上の権利なので就業規則に書いてなくても権利行使はできる。年次有給休暇にある使用者側の時季変更権も看護休暇には認められない。ただし有給か無給かは法律上の定めがなく、民間企業の6割が無給である。

ちば合同労組ニュース 第116号 2020年03月1日発行より