映画紹介『ガザの美容室』

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映画紹介『ガザの美容室』

 以前に途中だった映画だが今回最後まで観た。映画の舞台はパレスチナ・ガザ地区にある美容室。客は女性ばかりで繁盛している。女性だけなのでヒジャブ(髪の毛を覆うスカーフ)は必要なく順番待ちの客たちは世間話に花を咲かせる。
 店主はロシアからの移民。アシスタントは恋人との関係に悩む。離婚調停の女性客は逢瀬に向けて支度中。戦争で負傷した兵士を夫に持ち自身も薬物依存症の女性。結婚式を今夜に控えた若い女性、臨月の妊婦……様々な事情を持つ女性客たち。
 撮影カメラには前の通りがわずかに映り込むだけで限られた空間の中で進行していく。終盤、突然の銃声が鳴り響き、美容室は戦火の中に取り残される。直接の戦闘シーンはなく銃声や停電だけ。「美容室」という限られた空間に逃げ場を失った極限的な閉塞感・緊張感。観る者にガザ地区の日常と戦争を想像させる。
 「天井のない監獄」と呼ばれるガザ地区。福岡市ほどの大きさで壁やフェンスで封鎖され、ほとんどのパレスチナ人は外部に出たことがない。失業率は優に5割を超え、食糧配給で生活。日常的に偵察ドローンが飛び回り、空爆で何十人も殺される。それでも200万人以上の人びとが毎日生きているのだ。美容室にも行くし、恋人や夫との葛藤もある。政治や宗教と無関係ではいられない。
 2015年の映画。監督は1988年ガザ生まれの双子タルザン&アラブ・ナサール兄弟。私はレンタルで観たが、ガザ危機により緊急上映会の企画も。期間限定だがネット上で無料公開もされていた。

 ちば合同労組ニュース 第160号 2023年11月1日発行より