映画紹介『キネマの神様』

労働映画

映画紹介『キネマの神様』

 原田マハの長編小説を山田洋次監督が映画化し、2021年8月に公開された。当初は志村けんと菅田将暉が主演の予定だったが、志村のコロナ感染による辞退とその後の急死、政府による緊急事態宣言を受けて撮影が中断された。
 その後、沢田研二を代役に撮影が再開された。おそらく脚本は志村けんで当て書きされたまま撮影され、セリフや仕草も沢田が志村を演じる感じになっている。東村山音頭を歌うシーンも。しかし、沢田の独特の存在感もにじみ出て、なかなか面白い人物像になっている。
 主人公ゴウ(沢田)は競馬と酒が原因で多額の借金を背負い、妻の叔子ら家族に迷惑ばかり。ついには娘の歩が働く出版社にまで借金返済を迫る電話が。叔子と歩はギャンブル依存症の相談会に赴き、ゴウのカード類を取り上げ競馬を禁止した。暇を持て余したゴウは、かつての親友テラシンが営む映画館「テアトル銀幕」で懐かしい映画を観る。
 実はこの映画の助監督が若き日のゴウ(菅田)なのだ。テラシンは映写技師、叔子は撮影所の関係者がしばしば集まる食堂の娘。撮影現場や看板女優との交流、叔子をめぐる三角関係…やがて才気あふれるゴウが書いたシナリオが採用され、初監督作として製作が決まる。しかし思わぬ挫折が…。
 再び現在のシーン。古びた脚本を読んで感動した孫の助けで現代風に書き直した『キネマの神様』が脚本賞を受賞する。ここからは予定調和的に最後のシーンに向かう。コロナや派遣社員など現代的な要素もありつつ古き良き感じの映画になっている。志村主演であればどんな作品になったのか。

 ちば合同労組ニュース 第154号 2023年05月1日発行より