職場と労働法/不利益変更に同意しない、合理性を与えない

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不利益変更に同意しない、合理性を与えない

就業規則による不利益変更

 今回は、就業規則の変更による労働条件の不利益変更の問題を考えます。
 コロナ問題の発生から1年以上が経過し、労働条件の不利益変更、特に賃金制度の改悪や手当や退職金の改廃に関連して就業規則の変更が提案されるケースが増えています。もちろんコロナで経営が苦しくなったから当然に就業規則の改悪(不利益変更)が許されるわけはありません。
 07年の労働契約法の制定などもあって、近年は労働条件の設定や変更を、就業規則の変更によって行うことが一般的となっています。
 労働契約法12条は「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。 この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」となっています。
 就業規則で労働条件を決めている場合、就業規則を変更せずに、例えば住宅手当の廃止とか賃金カットを勝手に決めても、その決定は無効となります。そこで就業規則の変更が問題になるわけです。労働契約法の規定に基づく不利益変更にはいくつかのパターンがあります。

同意しないこと

 まず第一に、不利益変更について労働者の同意がある場合です。労働者が自由な意思で同意している場合(真の同意がある場合)、その同意に基づいて変更後の就業規則に法的な拘束力が認められるというものです。
 労働契約法9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」となっています。
 原則として、使用者は、労働者と合意を得られない状況で、就業規則を勝手に変更して不利益変更できません。
 ところで法律の世界は「反対解釈」があり、つまり同意がなければ原則として不利益変更はできないが、労働者との合意があれば不利益はできると解釈されています。
 この点については判例などを見ると、労働者の「真の同意」があったかどうかが問題となります。
 単に不利益変更に対して異議を唱えなかっただけでは労働者の同意とはなりません。十分な説明を行わずに同意書にサインさせ回収しても、同意とはみなされない判決もあります(山梨県民信用組合事件)。
 〝同意〟といっても、一般的には労働者は使用者より弱い立場にあるから、不利益変更の局面に労働者が簡単に心から同意することはまずありません。したがって単に異議を唱えなかったとか、まともに説明もしないで同意させたではダメだということです。
 とはいえ、同意書がある場合は、労働者にはかなり不利です。簡単に同意書にはサインしてはいけません。

合理性の4要素

 第二は、不利益変更に対して労働者の同意がない場合です。労契法9条は最後に「ただし、次条の場合は、この限りでない」と書かれています。
 労働契約法10条には、変更が合理的で、変更後の就業規則が周知されていれば、変更に同意していない労働者も変更後の就業規則に拘束されると書いてあります。
 もう少し詳しく見ます。労働条件の変更が合理的かどうかについては労働契約法10条の内容から次の4点で判断されます。
(1)労働者の受ける不利益の程度(賃金の引き下げ額などが、どれくらい労働者にとって不利益となるか)、(2)労働条件の変更の必要性(経営状況などから、その会社において不利益変更がどの程度まで必要か)、(3)変更後の内容の相当性(変更した後の就業規則の内容が、社会一般や業界、地域の状況などに照らして妥当かどうか。あるいは代償措置や経過措置などの不利益緩和措置があるかないか)、(4)組合との交渉などの状況(労働組合との交渉、個々の労働者に対する説明や話し合いが十分に行われたかどうか)。
 裁判所は(4)についてはかなり重視しているように思います。職場説明会や団体交渉をやっていない場合は、不利益変更の合理性を考える上で大きな問題となります。
 労働基準法の規定で就業規則の変更の際には労働者代表の意見聴取が必要ですが、これは労働基準法上の手続き違反だけではなくて、不利益変更の合理性の有無の判断にも影響します。
 不利益変更について周知していない場合は、企業側の敗訴が多いです。会社は就業規則の周知は避ける傾向がありますが、近年は積極的に周知する会社も増えてきました。しかし、それでも就業規則を見せたがらない会社も多く、不利益変更をめぐる闘いではこの点の確認は必須です。
 いずれにせよ不利益変更は、第一義的には労働者の同意が必要ですから、労働者側としては同意しないことが大切です。

ちば合同労組ニュース 第137号 2021年12月1日発行より