労働から考えるスシロー事件

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いま、回転寿司チェーン店での客によるいわゆる「迷惑行為」が多発し、後が絶えません。その発端となった、湯呑や醤油などをなめまわす高校生の動画がSNSで炎上する事件(「スシロー・ペロペロ事件」)です。彼は社会的批判を浴び、高校を中退。会社から多額の損害賠償請求が予測されています。もちろん、面白がって投稿する若者の行為は間違っています。しかし、この寿司文化を壊したのは、大手外食チェーン会社です。そして、効率化を求め儲けを優先させた新自由主義が食の安全を崩壊させたのです。

●会話のない食が当たり前?

そもそも、飲食産業は、コロナで打撃を受けました。3年経っても、コロナ1年目で解雇リストラにあった人たちの労働人口は回復していません。そのなかで、飲食業界のムチャクチャな労働環境が明るみになってきました。

このなかで「勝ち組」となったのが、回転ずし業界です。そもそも、寿司は江戸の時代から「高級な食べもの」として普及してきました。この十数年で、回転ずし会社は競うように徹底的なコストカットをはかり、ファミレス並みの「安い」食文化へと転換させました。その核心は、店舗の徹底的な人員削減です。回転ずし業界では、料理価格の50%が人件費で、約30%と言われるファミレスより多くの人出ががかかります。一店舗につき従業員20人。そのうち社員は1~2名で、あとは全員非正規の最低低賃金スレスレの労働で担われています。

●極限的効率化で業界のモラルが崩壊

そもそも、イタズラ動画を投稿できるのも、注文も配膳も自動化され、テーブルを店員の目が届かないようなレイアウトにしたことに根本的原因があります。寿司を握る人と食べる人が、向かい合っていた食文化を切断され、顔を合わせることがありません。予約から会計まで、誰とも話をしなくても食事ができます。コロナ下もあり、若い世代にとっては、会話もない人間と接することもない食事がもはや「当たり前」になっています。

実際に、おとり広告(スシロー)や営業秘密の不正取得(カッパ寿司)など業界の闇の深さが次々に浮き彫りになっています。そのようななかで、客のモラルが崩壊するのは当然でしょう。

こんな「逆境」のなかでも、地域で家族が交流できる店をつくろうと懸命に労働者は働いています。スシローに送られる「応援」も、会社ではなく本質的には行きつけのお店で働く労働者への激励です。いま回転ずし業界が揺れるなか、食の「安全」は労働者の懸命な努力で保たれています。飲食店業界にも労働組合を結成しよう。