経団連が労基法の規制緩和を要求

その他

実践的に考える職場と労働法実践的に考える職場と労働法

経団連が労基法の規制緩和を要求

「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」

 日本経済団体連合会(経団連)が1月16日付で「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を公表した。同日には、経営団体側の〝春闘方針〟とも言うべき経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)も公表されている。

労基法の適用緩和

 提言は「働き方のニーズの多様化や企業を取り巻く環境変化などを踏まえ、時代に合った制度見直しの検討を不断に行うべき」として、労働法による規制は労働者の健康確保などに関わる最低限のルールだけとし、労働時間の設定などの細部は労使自治に委ねるなどの見直しが必要と主張している。
 端的に言えば、労使自治の名のもとに労働法の適用除外を全面的に進めることを真正面から主張している。
 提言は、①過半数労働組合がある企業を対象として労働時間規制のデロゲーション(法律の部分的撤廃または廃止の意味)の範囲の拡大、②過半数労働組合がない企業では「労使協創協議制(選択制)の創設」を提唱している。

工場法以前の時代に

「働き方のニーズの多様化」「労使自治を重視」と言いつつ提言の核心的な目的は、「労働条件の画一的・集団的な規制」という考え方自体を葬り去り、労使自治の名で労働法の適用除外を全面化し、ある意味において工場法(労働法)制定以前の労使関係に歴史を戻すことだ。
 そもそも労働法が制定されるに至った初期の資本主義の時代(産業革命期)は、個別の「契約の自由」のもとで、労働者も資本家も平等・対等なのだからどのような労働条件を定めても当事者同士の自由というのが建前だった。もちろん資本主義の社会でそれはうわべだけの話です。
 当時、「あの労働者は1日12時間働く。同じ日給で13時間働くなら雇用してやる」――こうした「契約の自由」をタテに劣悪な就労環境や権利侵害が日常でした。これに対し労働者は長い闘いの歴史の中で、団結権・団体交渉権・団体行動権の労働3権に基づく集団的労使関係と、労働法による集団的労働条件規制をかちとった。
 提言は現行の労働基準法が「画一的な規制である」などと批判しているが、労働法は画一的に規制することに意味がある。
 労働組合も労働法も〝集団的〟が一つの核心だ。一つの職場だけでなく、同じ職種、同じ産別、全国すべての労働者を対象として労働条件を規定するのが労働法なのです。労使自治の名で労働条件の設定をバラバラにする規制緩和論は、議論として極めて乱暴かつ危険だ。
 2018年の「働き方改革」関連法で導入された「高度プロフェッショナル制度」は、残業代ゼロ制度と厳しく批判されたこともあって、現状では全国で数十社の企業でしか導入されていない。この高プロ制度についても提言は労使の話し合いで選択肢を拡大することを具体策として出している。

労使協創協議制とは

 今回の提言は、労働法(労働基準法)の基本精神に対する正面からの挑戦だ。
 労働基準法は、労働者が人たるに値する生活を営むため雇用と労働条件の最低基準を保障するものだ。特に労働時間の規制は労働者の健康に直結し、労働者の生活や尊厳、自由に関わる。だから絶対的な規制が必要なのであり、労使自治の名で容易に緩和できるものであってはならない。
 労働基準法は罰則もある強行法規として「契約の自由」を制限している。労働者・労働組合の同意を口実に労働基準法の適用除外が拡大することは、労働基準法の解体攻撃と言わざるを得ない。
 提言では、労働時間規制をデロゲーションする条件として「十分な健康確保措置等」を挙げている。しかし、労働基準法による労働時間規制こそが労働者の健康を確保するための最低限の規制だ。労働時間規制の解体を目論見ながら労働者の健康確保と言っていること自体が許しがたい。
 しかも健康管理と言いながら、それは「働き手の意識醸成」の問題とされ、労働者の自己責任としている。極めて無責任だ。
 提言は過半数労働組合がない企業においても、労使協定を結ばずに就業規則の弾力的運用をすることや労働時間制度の緩和を求めている。
 具体的には「労使協創協議制(選択制)の創設」という形で労使自治によるデロケーションを過半数労働組合がない職場にも広げようとしている。団結権やストライキ権を基盤としない状況で対等な労使自治は極めて困難だ。労働者の意見は反映されない。
 また提言は「今後求められる労働法制の姿」として「生産性の改善・向上に資する労働法制に見直す必要がある」とまで言っている。今回の提言は注意が必要だ。

ちば合同労組ニュース 第163号 2024年02月1日発行より