英米で台頭する新世代の労組組織者

組合活動

次世代のオルガナイザー育成

英米で台頭する新世代の労組組織者

職場を変える戦略や経験を持つオルガナイザー

 最近、労働組合関係者や労働弁護士などの呼びかけで次世代のオルガナイザー(労働組合の組織化に従事する人)の養成の努力が活発化している。以下は『労働法律旬報22年8月下旬号』の特集の菅俊治弁護士の論考「オルガナイザーはいかに育つのか?―海外の成功事例に学ぶ」の紹介と感想です。
 日本では「オルガナイザーの高齢化が深刻」と言われて久しい(隣国の韓国労働運動は1980年代の民主化運動を20~30代で経験した人が労働運動の主流の世代で日本よ1世代以上若い印象)。米英などでは、サンダース米上院議員やコービン・英労働党の元党首らオールド世代の活躍も報じられるが、他方で若手のオルガナイザーが台頭し、新しい運動を牽引している。
 その内容は興味深く、教訓的だ。日本の運動について考える材料にしたい。

職場の構造分析

 ドイツに本部を持つローザ・ルクセンブルク研究所は、「オーガナイズ・フォー・パワー」という組織化のオンライン・トレーニングを毎年実施しており、今年は世界110国から9千人が参加した。「職場の力関係を変えるための組織強化や団体行動のやり方を訓練する」とのこと。
 訓練の一つに「リーダー識別演習」という課題がある。職場の多数を組織すること、「力」(パワー)を獲得することが組織化の目的で、そのために職場の人間関係上の構造分析の技術を練習する。
 〝職場の構造分析〟――あまり聞き慣れない言葉だが、「オルガナイザー」「アクティビスト(活動家)」「リーダー」を区別し、特定することを指している。
 著者の菅弁護士によると、アクティビストとは〝やるべき活動を責任もってやり遂げる人〟で、本人の熱量や活動量に注目している。
 これに対しリーダーは職場の同僚に対して影響力がある人で、職場世論を決定付ける影響力に注目している。職場の多数を獲得するにはリーダーをいかに味方に引き入れるかの戦略が重要になる。
 そしてオルガナイザーは職場を変える戦略や経験を持つ人。アクティビストやリーダーを職場の中に見出し、彼らをエンパワーするのが仕事。エンパワーとは、個人や集団が本来持っている力(パワー)を引き出すというニュアンスだろうか?
 運動が成功する場合は必ずアクティビストとオルガナイザーの働き掛けがあり、リーダーを味方に引き入れる過程があると著者は指摘する。

スタバでの組織化

 昨年来、米国でのスターバックスのユニオン組織化が注目されている。
 米スタバで初めて組合結成に導いたのは25歳の女性ブリザック。両親が教員組合の活動家で、社会主義者ユージン・デプス(19世紀末から第1次大戦の頃に活躍した著名な労組活動家)の本を愛読していた。また全米自動車労組で日産工場の組織化にボランティアとして参加した経験もある。大学での勉強を終えた後、スタバのバリスタとして働く道に進み、そこで本格的に労働組合の組織化を始める。
 彼女に影響を与えたのが71歳の熟練オルガナイザーだった。ブリザックと老オルグは相談しながら組織化に着手。 働き始めて8か月後、彼女は「今しかない」と決断し、密かに労働組合の結成に向けて行動を開始する。2年前に組織化を試みた2人の労働者が解雇されていた。秘密裏に進めることが必要だった。
 彼女が最初に声をかけたのは同世代で入社5年目のスタッフ。SNSで「最低賃金で生活することは不可能」と書いていた。彼女であれば信頼できると考え「労働組合を一緒に作らないか」と打ち明けたのだ。
 初期メンバーの核となったのは、他の運動の経験者であったり、何万㌦もの学生ローンを抱える人など。数人の活動家が揃ったが、オルガナイザーは組合結成のゴーサインを出さなかった。

職場のリーダー

 そこでブリザックが接触したのが、勤務歴11年のベテランだった。必ずしもラディカルな言動の人ではないが職場のリーダーだった。
 彼女は他のスタッフよりも年長で、親切で、頼りにされ、皆から相談を受けた。彼女自身もコロナパンデミックを経て考えが変わっていた。ブリザックが「表に出る覚悟があるか」と聞くと「必要であればいくらでも」と答えた。その覚悟を見てオルガナイザーは初めて労働組合の結成を通告した…
 著者によると、〈オルガナイザーの本質とは、職場を変える戦略や経験を持つこと。そのためには、団体行動や団体交渉、ストライキなどの豊富な経験が必要〉と説く。
 以上は労組作りのすべてではないが組織化の経験として豊かな教訓があります。大会や労働学校、職場交流会でも議論の材料にしていきたい。

 ちば合同労組ニュース 第147号 2022年10月1日発行より