実践的に考える職場と労働法-労使協定と過半数代表選挙

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労使協定と過半数代表選挙

労使協定が昔に比べるとずいぶん増えています。
労働基準法は、労働条件の最低条件を定めたものです。本来はすべての職場で必ず守られなければなりません。この規準を下回ることは、たとえ労働者が同意したものでも無効であり、使用者が違反すれば罰せられます。
ところが労使協定は、これとは反対の意味を持ちます。つまり罰則を伴う最低基準を守らなくても使用者は罰則を免れてしまう仕組みです。だから、労使協定の定めのある条文はすべて、その前に罰則を伴う本来の定めがあるのです。
最も有名なのは36協定です。36協定を結ぶことによって使用者は、労働者を週40時間・1日8時間を超えて時間外労働させたり、法定休日に労働させても、労基法違反には問われなくなります。
労使協定の法的効果を「免罰的効力」と言います。使用者にとっては罰則を回避する免罪符みたいなものです。労使協定が増えていることは、それだけ最低基準があいまいになっていることを意味します。
ちなみに「労使協定」と「労働協約」は別物です。協約は、団体交渉で労使の合意が成立した内容を書面化したものです。労働組合法14条は、労働協約は書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印したものに法的効力を与えています。協定・覚書・確認書・了解事項…どのような名称やスタイルでも労組法14条に該当すれば労働協約です。
労働協約は、就業規則や労働契約よりも上位にあり、例えば労働協約で月給20万円と定めているのに、ある組合員は月給15万円の契約を結んだとしても、それは無効となり自動的に20万円に置き換えられます。

職場闘争の水路

もっとも、職場での実際の業務を進めたり、力関係などから協定に応じるしかない場合が多いとは思います。
しかし、労使協定の締結を通して、職場や組合の団結を強め、労働者の発言力を高めることはできるはずです。何しろ使用者が処罰を免れるための協定なのだから労使間の駆け引きは当然です。
労使協定の締結当事者は、過半数労働組合です。それがないときは労働者の過半数を代表する者となります。ところで労働基準法は、労働者の過半数を代表する者とあるだけで、その選出方法や任期は定めていません。
労働基準法施行規則によれば、①労働者の過半数を代表する者の適否を判断する機会が職場の労働者に与えられ、なおかつ②代表が使用者の指名など使用者の意向に沿って選出されてはならないとなっています。そして③挙手や投票など、当該事業場の過半数が支持していることが分かる民主的な手続きが必要――とされています。
労働組合員数がその事業場の過半数を組織している場合は、そのまま組合の代表者が過半数代表となります。やはり労働組合にとって過半数を制することは大きな使命です。また労働者代表選挙を労働組合結成に結びつけることもできると思います。代表選出選挙になれば、職場の中の運動や議論は活性化します。
いずれにせよ労使協定は、会社に免罰的効力を与えるわけですから労働者全体の労働条件に大きな影響を与えます。少数派の組合であっても団体交渉で労使協定の提示を要求することが必要です。会社派の多数組合が過半数代表者となっても、なんでも勝手に協定できるわけではありません。協定内容は労働者に告知する義務もあります。

法令上の労使協定

(※太字は、所轄労働基準監督署長への届出が必要な労使協定)

■労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合
■賃金から法定控除以外にものを控除する場合
■1ヶ月単位の変形労働時間制
■フレックスタイム制 / ■1年単位の変形労働時間制
■1週間単位の非定型的変形労働時間制
■休憩の一斉付与の例外 / ■時間外労働・休日労働
■割増賃金に代えて代替休暇を取得する場合
■事業場外労働のみなし労働時間制 / ■専門業務型裁量労働制
■年次有給休暇の時間単位付与 / ■年次有給休暇の計画的付与
■年次有給休暇の賃金を健康保険法に定める標準報酬日額で支払う場合
■衛生委員会・安全衛生委員会に労働時間等設定改善委員会の代替をさせる場合
■1歳6ヶ月に満たない子の育児休業の適用除外者
■要介護状態の対象家族の介護休業の適用除外者
■小学校就学前の子の看護休暇の適用除外者
■要介護状態の対象家族の介護休暇の適用除外者
■3歳に満たない子の育児のための所定外労働の制限の適用除外者
■3歳に満たない子を養育する者に関する所定労働時間の短縮措置の適用除外者
■65歳までの継続雇用制度の対象となる基準を定める場合
■雇用継続給付の支給申請手続を事業主が代理する場合
■雇用調整助成金の申請

ちば合同労組ニュース 第74号(2016年9月1日発行)より

雇用・労働法制をめぐる安倍政権の攻撃

〈ちば合同労組学習資料〉

雇用・労働法制をめぐる安倍政権の攻撃

ちば合同労働組合 2016/08/24 koyou-housei201608.PDF
このパンフレットは、
【1】労働者が団結して闘うことに展望を示したい。
【2】雇用・労働法制をめぐる安倍政権の攻撃。
【3】労働運動再生の道を示すCTS闘争。
――の3章構成の学習資料のうちの2章の部分を抜粋したものです。雇用・労働法制をめぐる安倍政権の攻撃の全体像を明らかにしたいと考えています。ご活用ください。

◎抜本的・根本的な安倍政権の雇用政策の転換

雇用・労働法制をめぐる安倍政権の攻撃は、本当に歴史的な転換、戦後労働法制の解体をめざす攻撃です。これは日本のみならずいま世界中で起きている問題です。
8月3日の内閣改造で、安倍首相が「次の3年間の最大のチャレンジ」という位置づけで「働き方改革」を提唱し、「働き方改革担当大臣」を新設しました。一億総活躍担当大臣が兼務しています。
安倍首相は記者会見で「最大のチャレンジは、『働き方改革』であります。長時間労働を是正します。同一労働同一賃金を実現し、『非正規』という言葉をこの国から一掃します」と述べています。
そして働き方改革担当大臣のもとに「働き方改革実現会議」も設置し、年度内をめどに、実行計画を策定すると言っています。

◎労働行政の大転換―労政審をまる無視

これ自体が労働行政の大転換です。建前とはいえ、労働問題は、使用者と労働者の利害が対立するので、労働法の改定や労働政策を変更するときには、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会(労政審)の審議や調査が必要という慣習・仕組みになっています。
労政審は、公益・労働者・使用者の各代表10人の計30人で組織される三者構成方式を採っています。これはILO(国際労働機関)の原則に踏まえたものです。たとえば最低賃金法には、最低賃金を決めるとき政府は労政審の意見を反映させなければならないと規定しています。労働基準法や職業安定法などにも書いてある。
もちろんこれは建前で、労政審の労働者委員はすべて連合推薦です。労働貴族がちょっと建前っぽいことを言って、多少の歯止めをかける措置がつけ加えて、全体としては承認していく仕組みです。1990年代以降、こういう構図で労働法の後退・解体がドンドン進行したことは間違いありません。
ともあれ「長時間労働の是正」だとか「同一労働同一賃金の実現」を言うならば、厚生労働大臣が労政審に諮問して進めるのが、これまでの通常の流れです。 Continue reading →

16時間夜勤を合法化する労働基準法

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16時間夜勤を合法化する労働基準法

労働時間とは?

今回は「労働時間とは何か」を考えてみたい。長時間労働の問題など論点は多様ですが今回は職場闘争の観点から。
労働時間はいつ、どこで、どんな態様で始まるのか。門から? タイムレコーダー打刻? 更衣室? 作業着手?
資本主義社会では、「時間」をめぐる問題は最も〝本質〟に関わる問題です。どんな経営者も、自分が支払った賃金以上に労働者を働かせることを最初から意識しています。〝時は金なり〟です。資本家は1分でも多く働かせたい。労働時間をめぐる闘争こそ労働組合にとって最も古く、そして中心的テーマです。
資本家は、単に8時間の労働力を買っただけではありません。その「瞬間刻々」を最大限の強度で使用したい。また機械や技術が陳腐化する前にできれば24時間リレー制で働かせたいと願っています。

実働1日38分増

かつて日本の工場は、工場の門を出入りする時間で労働時間を管理していました。8時始業なら8時に工場の門に滑り込んでタイムレコーダーに打刻すればセーフ。製鉄所など広い工場では、打刻後に構内バスで職場に行き作業着に着替えて仕事にかかるのが一般的でした。5時終業ならば4時半ぐらいに仕事を終え入浴して門まで行って5時に打刻すれば「終業5時」です。
これは経営者に言わせれば朝夕30分ずつ無駄に賃金を払っている。それで松下電器などで「現場到着制」が始まりました。工場の門にあったタイムレコーダーを作業現場に移動、職場に到着してから打刻させたのです。作業着に着替えて打刻、8時ジャスト作業開始!というわけです。
参考文献『労働基準法・実践の手引き』によれば三菱重工長崎造船所では、週休2日制とバーターで従来は労働時間とされた始業終業の関連行為(打刻・更衣・安全保護具の着脱・現場までの移動・洗面入浴など)がすべて時間外とされ、実働が1日38分延長されました。88年当時の年間出勤日数246日で掛けると「19日と3時間48分」、ほぼ1カ月の出勤日に相当する実労働時間の増加でした。
これに対する長船労組の闘いの成果がかの有名な「三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決(作業着の着替えも労働時間/使用者の指揮命令下にあれば労働時間)」です。
私は不勉強でよく知らないのですが、職場闘争で有名な三菱長船労組です。その背後で激しい職場闘争を展開したはずです。研究課題です。

8時間制の解体

労働時間の原則(労働基準法32条)は「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」となっています。
お題目は画期的内容です。ですが法定8時間を強制する効力は実質ゼロです。使用者は36協定を締結して労働基準監督署に届ければ、時間外・休日にいくら長時間労働をさせても罰せられません。
しかも、36協定における上限となる労働時間についても労働基準法の定めはないのです。厚生労働大臣が上限を決めていますが(現在は週15時間・年360時間)、現実には「特別条項付き協定(エスケープ条項)」を許容しており無制限、そもそも過労死ライン(月80時間)超の限度時間を定める企業もあります。
調査によれば労働者代表と結ぶ36協定より労働組合と締結した方が延長時間は長い。

87年の大転換

介護施設では16時間の夜勤が当たり前です(ネットで検索してみて下さい)。なぜこんなに過酷な労働が合法なのだろうか!? 実は1987年の労基法改定で労働時間の大転換があったのです。
p0073_02_01a 労働時間の規定が「1日8時間・1週48時間」→「1週40時間・1日8時間」に変わりました(週40時間制に)。
「日」と「週」の位置が入れ替わったことに注意して下さい。もともとは1日の労働時間の上限があって、その上で1週の上限が決まっていました。ところが改定後は1週の労働時間の限度がまず設定され、1日8時間は1週40時間の〝割り振りの基準〟になったのです。
その狙いは変形労働時間制の拡大です。〈1日8時間の上限規制〉という考え方を解体して、平均して週40時間の枠内に収まれば良いという理屈を編み出したのです。
多くの介護職場で採用されている1カ月単位の変形労働時間制は、就業規則で一方的に制定できます。こんな過酷な働かせ方が〝合法〟だなんて、と叫びたい気分です。
看護師の夜勤制限をかちとったニッパチ闘争が必要です。介護職場で夜勤を制限させる職場闘争をどう形成するか。大きな課題です。みなさんのご意見を!(S)

ちば合同労組ニュース 第73号(2016年8月1日発行)より

職場の矛盾や弱点を見つけ出して闘いの糸口に

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今月から「実践的に考える職場と労働法」と題して連載を始めます。どんな職場でも闘いの手掛かりは必ずある。職場の矛盾や弱点を見つけ出して闘いの糸口にしたい――そういう気持ちで労働基準法や労働安全衛生法を実践的にチェックしたいと思います。合同労組やユニオンの運動にとって、〈労働者の権利の擁護〉は必須課題であり、動労千葉の「運転保安闘争」的領域と並ぶ労働運動実践の重要な要素ではないかと思います。
試行錯誤ですが『実践の手引き・労働基準法』(西村卓司・古谷杉郎著/91年)と『労働法第11版』(菅野和夫著/16年)を参考文献にして勉強しながら書いていきます。みなさんの意見・感想もよろしくお願いします。

職場の矛盾や弱点を見つけ出して闘いの糸口に

職場闘争の出発点

職場闘争の出発点として、労働基準法・労働安全衛生法と就業規則の読み込みは大切な一つの手だと思います。それだけで法律違反をいくつか発見できるはずです。門に入ってから門を出るまでの自分の行動を注意深く検討することで、さらに多くの法律違反や権利放棄の事実に気付くはずです。
憲法27条第2項「賃金・就業時間・休息その他の勤労条件に関する規準は法律で定める」を受けて労働条件の最低基準を定めたのが労働基準法です。労基法が労働者保護法と言われる由縁です。
労働法は、百年を超える長い労働者階級の闘いによって生まれたものです。法律それ自身が自立的に展開して労働者を保護しているわけではないことには留意する必要があります。〈闘いなくして権利なし〉です。

民法に優先される

労働法が民法と競合する場合は労働法が優先されます。

いわゆる市民法(民法)は、法の前に万人が平等であるという建前で〈契約自由の原則〉が優先されます。民法上では、労働者も資本家も平等だから契約自由の原則なのだというわけです。
しかし資本主義の世の中ではそれはうわべだけの話です。労働者を解雇する資本家と解雇される労働者が対等であるとの説明はとうてい納得できません。
契約の自由をタテにした資本家の支配や権利侵害に対して世界中の労働者の長い闘いによって、労働者の生活や権利を保護する労働法が生み出され、それは市民法に優先されるようになったのです。
「資本家も労働者も1対1の対等・平等」とする最近の傾向には本当に警戒が必要です。

07年には労働契約法が施行され、労働契約は労働者と使用者の合意が原則だと強調されるようになり、ますます労基法が後景化されています。
「本人が同意すれば労働時間規制は適用除外OK(残業代ゼロ制度)」「最低賃金以下でも本人が同意したならいいじゃないか」という安倍政権の論議は超危険です。

労働条件の最低基準

労働基準法の大半の条文は強行規定です。
強行規定というのは、当事者の意思や状況にかかわりなく無条件に適用される法規ということです。労基法違反の企業は刑事罰となり、法律の規準に達しない労働契約はその部分については無効となり労基法の最低基準が適用されます。労働法以外の法律では、無効のままで空白になるのとはずいぶん違います。
しかし、その内容がやはり最低基準にとどまっているのは、これが資本家の譲歩の限界だということです。

そもそも産業革命後の英国で最初に工場法が制定されたのは、資本家の熾烈な競争によって長時間労働や児童労働がエスカレーションし労働者の健康悪化と平均寿命低下が深刻化し、そもそも資本主義として維持できなくなる危機に陥ったからです。
最低基準の設定は実際には資本家の利益にためにあることも忘れてはならないと思います。
日本の労働者の現状が、最低基準の遵守をめぐって争われている現状は悔しい限りですが、ここが出発点です。

労働基準法や労働安全衛生法、労働契約書や就業規則を読み込むことは、職場で闘いを開始するにあたって、適切な闘争課題、闘争形態を選び出すために重要だと思います。労働者が警戒すべき点、利用できる点を知ることは大切なことです。(S)

ちば合同労組ニュース 第72号(2016年7月1日発行)より

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